霎時施(こさめ、ときどきふる)

<静寂な宇奈月湖>

10月28日から七十二侯は「霎時施(こさめ ときどきふる)」で、二十四節気「霜降」の次侯にあたる。

一雨毎に気温が下がり、冬が近づく頃という意味。

霎(こさめ)は小雨ではなく通り雨で、時雨(しぐれ)のこと。

奥黒部の山々は初冠雪を戴き白く輝いている。

秋の初時雨は、冬支度を始める合図で黒部川の支流ではサクラマスの産卵が始まる。

黒部峡谷鉄道の最終駅の欅平は、標高600mで今が紅葉真っ盛り。

宇奈月温泉周辺は11月7日ごろが紅葉のピークを迎える。

宇奈月湖は静まり返り、水鳥たちの楽園となっている。

霜始降(しも はじめてふる)

<昭和天皇御製>

10月23日から二十四節気は「霜降」に入る。

秋は深まり暖がほしくなる頃、里山には霜が降りる。

霜降が過ぎれば立冬となるので秋から冬への変わり目。

七十二侯は「霜始降(しも はじめてふる)」で二十四節気「霜降」の初侯にあたる。

朝夕の冷気で延楽から対峙する黒部の山々の稜線は赤や黄に染まる。

昭和33年10月21日、昭和天皇が延楽で宿泊されたときに詠まれた御製が残されています。

<御製 宇奈月の宿より黒部川を望む>
くれないに 染め始めたる 山あいを
流るる水の 清くもあるかな
侍従入江相政 謹書

宿の部屋から眺める黒部の山々は色付き始め、峡谷を流れる水はますます清く透明度を増してきます。

今も昔も変わらぬ錦繍の黒部峡谷です。

蟋蟀在戸(きりぎりす とにあり)

<「秋草の図」塩崎逸陵>

10月18日から七十二侯は「蟋蟀在戸(きりぎりす、とにあり)」で、二十四節気「寒露」の末侯にあたる。

季節は晩秋、冬がそこまでやってきているので、蟋蟀(きりぎりす)が戸口で鳴く頃という意味。

部屋の室礼も秋草の掛け軸から紅葉物に架け替える時期である。

一雨ごとに秋の深まりが感じられ、黒部の山々の稜線は紅に染まりつつある。

黒部の流れは増々清くなり、サケの遡上が始まる。

サクラマスは皐月の頃に遡上が終わり、今は黒部の川の深い淵に潜んで、支流へ移動する頃合いを探っている。

そろそろ黒部奥山の初冠雪の便りが届く頃だ。

今日は、塩﨑逸陵画伯の秋草の軸の前で名残惜しんで杯を傾ける。

塩﨑逸陵は、富山県高岡市出身の日本画家で東京美術学校(今の藝大)に学び、川端玉章、寺崎広業に師事する。

気品あふれる花鳥図や人物画を描き色使いが美しい。

作品創作のため延楽でたびたび逗留したようだ。

菊花開(きくのはな ひらく)

<宮廻正明:「道の空(薮田小学校)」>

10月13日から七十二侯は「菊花開(きくのはな、ひらく)」で、二十四節気の寒露の次侯にあたる。

菊が咲き乱れる頃という意味。各地で菊祭りが開かれる頃である。

芸術の秋、黒部峡谷セレネ美術館では開館25周年を記念して「宮廻正明展:(無極)」が開催されている。

宮廻正明画伯は、近年では最新の科学技術と芸術を結び付けたクローン文化財のリーダとして脚光を浴びている。

最初の部屋に展示されている大作が「道の空」、富山県氷見市の薮田小学校である。

取材時にはすでに廃校になっていて、解体される運命にあった。

平成5年、ブリお越しの取材に行く途中、薮田小学校の前を通過したとき校庭にはいくつもの水たまりがあり空と雲が映りこんでいた。

宮廻画伯は直ぐにスケッチを始める。

薮田というと浅野コンツェルンを一代で築き上げた浅野総一郎の故郷である。

京浜工業地帯の生みの親でもある。

このプロジェクトに昭和2年から加わるのが、宇奈月温泉の生みの親の山田胖である。

浅野は、山田胖の電気事業に対する優れた見識と卓越した経営手腕を高く評価し、系列会社へ役員として迎え入れる。

宮廻画伯の作品は二人の結びつきを物語っているかのようでもある。

山田胖氏のお孫さんが東京芸術大学で、宮廻画伯の後輩であるというのも不思議な縁である。

展覧会の会期は10月13日から11月25日まで。

鴻雁来(こうがん きたる)

<透明度を増す黒部川>

10月8日から二十四節気は「寒露」となる。

夜空に輝く星が冴える頃、秋が徐々に深まり夜は肌寒く朝夕の露が一層冷たく感じられるようになる。

七十二侯は「鴻雁来(こうがん、きたる)」で、雁が北から渡ってくる頃という意味。

これに対して半年前の七十二侯は「鴻雁北(こうがん、かえる)」で雁が北に帰っていく頃で、今年は4月10日だった。

黒部の川は、流れる水の透明度を増しながらサケの遡上を待っている。

川沿いに設けられたやまびこ遊歩道の足元には、冷たい露に覆われた野菊が咲き誇っている。

紫式部の小さな実も赤紫色に染め始める頃である。

七十二侯は豊かな感性が育んだ日本の暦である。

いよいよ山装う季節の到来である。

水始涸(みずはじめてかるる)

<セレネ美術館>

10月3日から七十二侯は「水始涸(みずはじめてかるる)」で、二十四節気「秋分」の末侯にあたる。

収穫の秋を迎え、田圃から水が抜かれる頃という意味。

宇奈月街道の田圃は黄金色に輝き、まさに収穫のころである。

黒部峡谷・セレネ美術館に、田渕俊夫画伯の「収穫の頃」が展示されている。

愛知芸術大学教授時代の作品である。

当時大学の近くの長久手に住居とアトリエを構え、周りの田圃風景を作品に仕上げている。

特に「収穫の頃」はその時期の代表作である。

稲を刈り取った後の藁を燃やした煙が、天高く上りやがて水平に棚引く。

収穫の安堵感と感謝の念が伝わってくる。

芸術の秋は、セレネ美術館で名画と対峙がおすすめである。

蟄虫坏戸(むしかくれて とをふさぐ)

<秋の山野草:更科升麻を生ける>

9月28日から七十二侯は「蟄虫坏戸(むしかくれて とをふさぐ)」で二十四節気「秋分」の次侯にあたる。

すだく虫たちが土の中にもぐり始める頃という意味。

虫たちの冬支度である。

半年前の七十二侯は「蟄虫啓戸(すごもりのむし とをひらく)」で、冬眠していた生き物が春の日差しの元に出てくる頃という意味。

蟄虫(ちっちゅう)とは地中にこもって越冬する虫のことで、今はまさに蟄虫の忙しさである。

秋分の日を境に日は弱く短くなる。

黒部の山では秋の山野草が花を咲かせる。

谷筋に白く開花するのは更科升麻。

キンポウゲ科の植物で、藍色の鳥兜等と共に咲いている。

足元には朝露に濡れた秋桐が、紫の鮮やかな色を呈してくれる。

秋の深まりが感じられる山路である。