金彩赤絵向付

<寒鰤の造り>

11月末に起きる雷を伴った荒天を地元では、御満座荒れと呼んでいます。寒鰤の豊漁の前触れで、昔から鰤お越しと呼ばれています。

御満座とは、浄土真宗の開祖親鸞の命日「御正忌」のことで、11月28日です。この時期は、北西の季節風が吹きだし、よく雷鳴がとどろきます。熱心な真宗の信者である漁師達は、この荒天を御満座荒れと呼んだ事に由来します。

寒鰤の美味しい時期となりました。脂の乘った刺身は大根おろしを添えて食します。お薦めの地酒は、千代鶴酒造の純米生原酒「恵田」です。

季節のうつわは「金彩赤絵向付」で永楽和全の作品です。

和全は、幕末から明治期にかけて活躍した京焼の12代善五郎です。44歳で隠居した後、大聖寺藩に招かれて九谷焼の指導を行い、再興九谷の発展に尽くします。

金襴手、呉須赤絵、染付、万暦赤絵、安南など写し物に優れた才を発揮し、九谷焼に影響を与えます。

染付網目蓋付汲出皿

<器全体が染付の網目で覆わる>

冬の富山湾は、食材の宝庫です。寒鰤、津合蟹、紅津合蟹、毛蟹、のどぐろ、平目、梅貝甘海老、富山海老、真鱈など沢山の種類の魚が水揚げされます。

中でも、冬の真鱈は美味しく、その料理は多彩です。特に白子は美味で、色が白く雲のような見た目なので雲子と呼ばれています。雅膳の一品は、雲子玉地蒸しです。

季節のうつわは「染付網目蓋付汲出皿」で、矢口永寿の作品です。

矢口永寿は、1904年に自宅である山中温泉の湯宿に、京都より永楽保全の門下である滝口加全らの陶工を招き開窯しました。1906年には清水六兵衛の門人・戸山寒山を招き染付磁器を中心に料理の器を多く製作しました。陶芸の他に書画や料理にも秀で、北大路魯山人とも親交があり、すぐれた作品を残しています。

橘始黄(たちばなはじめてきばむ)

<寒鰤の旨味が味わえる鰤しゃぶ>

12月2日から七十二侯は「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」で、二十四節気「小雪」の末侯となります。

師走に入り、橘が黄金に輝く実をつける頃という意味です。橘とは蜜柑や柚子などの食用になる柑橘類の総称で、古事記や日本書紀にも登場し、万葉集にも多く詠われています。京都御所や平安神宮では「左近の桜」に対して右側に植えられているのが「右近の橘」です。

宇奈月温泉では、これから冬型の気圧配置が強まり、北風が吹き荒れるようになります。日本海に雷鳴がとどろきだすと南下する寒鰤が富山湾の定置網に入ります。雪見露天風呂で温まり津合蟹、寒鰤を食する頃となります。とりわけ鰤しゃぶの旨い季節となります。

西王母(せいおうぼ)

初冬の椿

宇奈月の野山に初雪が降りて山野草の終りを告げる頃、心を和ましてくれるのは椿です。西王母は、ツバキ科の早咲きの常緑高木で、11月から春にかけて咲きます。

西王母は、金沢に古くから伝わる名花で、加賀侘助の自然実生と推定されます。桃色紅ぼかしの一重で、中ふくらみの筒咲きの形や、蕾のふっくらとした丸さも茶人に愛されてきました。

椿は、茶花として古くから愛用されてきましたが、昔は藪椿を主体に薄色椿と呼ばれるものが古書に登場します。これは特定の品種を指すものでなく、淡い桃色や特に白色を含めて呼ばれていた品種群を指しています。薄色が愛用されたのには、当時の茶室の明るさとも関係があったのかもしれません。

茶花として用いられる品種は、白玉、初嵐、曙、加茂本阿弥、乙女、太郎庵、西王母、有楽、侘助、太神楽、角倉、妙蓮寺、紅唐子、黒椿、散椿、袖隠、臘月、羽衣等があります。

織部沓形筒向附

<冬野菜焚合>

冬の根菜類は甘みを増し美味しくなる頃です。蓮根、人参、山芋をそれぞれ含め煮にし、とり合わせます。葛餡をかけても美味しくいただけ、体の芯から温まりますす。

季節のうつわは「織部沓形筒向附」です。沓形とは楕円形の器形を示し、特に茶碗の一形状の沓茶碗に用いられる呼称です。

沓とは、宮中や神社などで用いられ木沓(きぐつ)の形をなし、前後が丸みを帯びていることから、楕円状を指す言葉として用いられたようです。

仁清色絵椿絵皿

<平目天婦羅>

黒部漁港では、平目が多く水揚げされます。料理は多彩で、薄造り、昆布締め、煮付け、しゃぶしゃぶ、フライ、天麩羅などで美味しくいただけます。

平目は、鰈とともに異体類に属し、体は扁平で眼が片側に偏って並んでいます。見分け方は、眼のある表の腹部を手前にし、頭が左にくれば平目、右にくれば鰈です。鰈類に左に頭がくる種類があります。平目でも、稀に右に頭が来るのもあります。確実なのは大きな口で鋭い歯が生えているのが平目で、おちょぼ口が鰈です。これは捕獲するえさの違いからきています。

季節のうつわは「仁清色絵椿絵皿」です。紅白と緑釉の色合いが料理を引き立ててくれます。

青白瓷八面取向附

<蟹の洗い>

蟹の洗いは、透き通るような活蟹の身を、氷水にさらすと花が咲きます。とろけるような食感の中に濃い甘みが口いっぱいに広がります。蟹会席の一皿です。

季節のうつわは「青白瓷八面取向附」です。

白磁は、鉄分など不純物が少ないカオリンなどの白色粘土や陶石などの白い素地に、透明釉をかけて焼成したものです。微量の鉄分などの不純物が含まれると還元焼成すると淡い青みを帯びて発色します。これが青白瓷です。

焼締片口皿

<土肌を感じる器>

北陸では、11月末から「冬期雷」といって雷鳴がよく発生します。富山湾に地響きのような激しい雷鳴が轟き渡ると強風が吹き荒れ、沖合では大シケが続きます。鰤が富山湾に入ってくる合図の「鰤起こし」です。

11月28日は親鸞聖人の命日です。昔から天候がよく荒れるので、真宗門徒の多い富山では、「御満座(ごまんざ)荒れ」と呼んでいます。

いよいよ寒鰤のシーズンの到来で市場では大物が並び、活況を呈します。延楽では脂の乗った寒鰤と、湯量豊富な温泉が味わえる好季節を迎えます。

季節のうつわは「焼締片口皿」で、荒木義隆さんの作品です。荒木さんといえば焼締めです。土の風合いをストレートに伝える焼締の作品に、寒鰤の造りを添えました。

朔風払葉(きたかぜ このはをはらう)

<終宴:手塚雄二>

11月27日から七十二侯は「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」で、二十四節気「小雪」の次侯となります。朔とは北の方角なので朔風は北風のことです。北風が吹いて木の葉を散らす頃という意味です。

黒部峡谷鉄道は11月30日で営業終了となります。宇奈月温泉周辺の木々は、まだまだ色濃い紅葉の葉が残し、晩秋ならではの深い色合いとなっています。山彦遊歩道は、錦色に染まった落葉で綾錦の絨毯を敷き詰めたかのようです。

セレネ美術館の収蔵作品に、黒部の落葉をとらえた手塚雄二氏の「終宴」があります。奥黒部の十字峡での取材を終えて岐路についた時、断崖絶壁の日電歩道にはヒラヒラと落ち葉が舞い落ちていました。晩秋の黒部の印象を描いた作品です。これから黒部峡谷は、雪と紅葉が織りなす幽玄の世界に入ります。

乾山写寿見込向付

<赤絵に映える香箱蟹>

冬の富山湾の代表的な食材は「香箱蟹」です。津合蟹の雌で資源保護の観点から漁の期間は短く、11月6日から1月6日までと定められています。冬の海に隠された赤い宝石と呼ばれ、寒鰤とともに人気の冬の味覚です。

特に、甲羅の中の赤い内子や、お腹の外側にある外子は絶品で地酒と合います。活蟹会席の一皿で格別の旨味が味わえます。濃厚な蟹味噌もお勧めです。

季節のうつわは「乾山写寿見込向付」です。赤絵の器に赤い香箱が美しく映えて、絶妙の取り合わせです。