蚕起食桑(かいこおきて くわをはむ)

<田植えの準備で忙しくなる頃>

5月21日から二十四節気は小満に入る。小満とは陽気盛んにして万物の生長する気が天地に満ち始める頃で、立夏から数えて15日目。七十二侯は「蚕起食桑(かいこおきて くわをはむ)」で二十四節気「小満」の初侯。蚕が桑の葉を盛んに食べて成長する頃という意味。富山県五箇山はかつては養蚕が盛んで、合掌造りの内部は養蚕の為の様々な工夫がなされていた。茅葺き屋根の家屋が田圃の水面に映り込む頃でもある。日一日と夏めく日が続き、麦の収穫、田植えの準備などで農家は活気に満ち溢れる。

北陸地方が異常乾燥に見舞われる時期でもある。昭和21年5月21日、宇奈月温泉街にあった建設会社の作業所付近から出火し、風の強いフェーン現象で火が瞬く間に飛火し、宇奈月温泉のほとんどを焼失した。以来この日を「宇奈月大火の日」として宇奈月神社で火鎮祭が行われる。併せて旅館を出火場所と想定し、大規模な消防訓練が行われる。

竹笋生(たけのこ しょうず)

<標高566.8mの大原台自然公園に建立された観音像>

5月16日から七十二侯は「竹笋生(たけのこ しょうず)」。二十四節気「立夏」の末侯にあたる。竹笋(たけのこ)が生えてくる頃という意味。

笋は、筍の異体字である。食材の筍の収穫期間は、孟宗竹が3月から4月。真竹は5月から6月にかけて。今の時期に収穫できる筍は根曲竹(ねまがりだけ)で、宇奈月の深山の広葉樹林や沢地などに大きい集団を作って群生する。地元の人は、筍と言うよりは山菜の感覚で扱っている。千島笹とも呼ばれ、北海道から山陰までの日本海側で雪深いところに分布する。

5月18日は宇奈月平和の像(観音像)の観音祭で、法要が営まれる。地元出身の彫刻家・佐々木大樹氏の大作で、台座を含めると21mの高さがあり、宇奈月温泉街が一望できる標高566.8mの大原台自然公園にある。日本一高いところに建立されたブロンズの観音像である。

大原大からは遠くは北の彼方に富山湾と能登半島、東の彼方には雪を頂いた白馬連山を望むことができる。延楽から車で20分であるが、自然を味わいながら90分かけて散策するのも良い。様々な山野草や蝶々が観察できる、お薦めのコースでもある。

蚯蚓出(みみず いずる)

<新緑の黒部峡谷・出し六峰>

5月11日から七十二侯は、「蚯蚓出(みみず いずる)」で二十四節気「立夏」の次侯にあたる。夏に向うにつれ、土の中から蚯蚓(ミミズ)が這い出してくる頃と言う意味。

今まで冷気を含んでいた朝の風は、立夏ともなると爽やかな風になり、宇奈月は今まさに新緑の季節本番。春の陽射しは少しずつ力を増し、萌葱色の草木も日一日と緑が濃くなる。雪を纏った黒部の山々と里山の新緑が最も美しい頃である。

黒部峡谷鉄道のトロッコ電車の車窓から新緑の黒部峡谷の景色が堪能できる。出平を過ぎるとダムによってできた湖が広がる。そこに映り込むのは雪を残した出六峰。残雪の多い黒部ならではの景色である。

蛙始鳴(かわず はじめてなく)

<新緑の黒部峡谷・黒薙 後曳橋>

5月5日から二十四節気は「立夏」。暦の上では夏に入る。宇奈月の早朝の川風は少し冷たさを含んでいるが、雪の纏った山々と麓の新緑が最も美しい季節でもある。これから柔らかな春の陽射しが少しずつ力強くなり暑い夏に向かう。

七十二侯は「蛙始鳴(かわず はじめなく)」で二十四節気「立夏」の初侯にあたる。田圃でカエルが鳴き始める頃という意味。雪解け水が流れる黒部川の河原からは時折、河鹿の鳴き声が瀬音とともに心地よく伝わる。初夏の気配だ。河鹿とは、清流を住処にしている蛙で、その高く澄んだ鳴き声は、鹿に似ているといわれている。

黒部峡谷鉄道は、黒部の山々の残雪と柔らかな新緑のコントラストを眺めながら、深く切り立った黒部峡谷沿いを走る。トロッコならではの黒部の

牡丹華(ぼたん はなさく)

<松尾敏男画伯の作品:牡丹>

4月30日から七十二侯は「牡丹華(ぼたん はなさく)」で二十四節気「穀雨」の末侯にあたり平成最後の日である。百花の王である牡丹が大輪の花を咲かせる頃という意味。牡丹は、俳句では夏の季語。春の終わりを惜しむように咲き、夏への橋渡しをしてくれる。宇奈月温泉は牡丹の開花にはまだ早い。

延楽は日本画壇の先生達がよく逗留された。日本美術院の堅山南風先生も常連で、そのお弟子さん達も含めた作品が残っている。とりわけ松尾敏男先生の「牡丹」は気品があり展示すると周りが華やかになる。現在ロビーに展示されている。

宇奈月では山から吹き下ろす朝風は肌寒く、雪が残った山肌と麓の新緑が目に優しいコントラストを作り出す。雪が消えた宇奈月の原野にはカタクリやキケマンの群生が現れ、春の陽光を浴びて一斉に花開く。時折、鶯の声が心地よく響く。

4月29日から黒部峡谷鉄道は欅平まで全線開通した。5月2日は、立春から数えて88日目の「夏も近づく八十八夜」である。夏がすぐそこまでやってきている。

霜止出苗(しもやみて なえいずる)

<詩の道遊歩道を彩る花桃>

4月25日から七十二侯は「霜止出苗(しもやみて なえいずる)」で二十四気「穀雨」の次侯にあたる。朝晩の厳しい冷え込みは緩み、霜が降りなくなる頃という意味。

この侯を迎えると農家では田植えの準備に取りかかり、田に水を張る。満面の水面には、雪を纏った黒部の山々と新緑の里山が美しく映り込む。山居村の屋敷はまるで浮城のように見える。

宇奈月の詩のみち遊歩道の花桃が見ごろを迎えた。赤や白やピンクの花が遊歩道を彩る。延楽の館主が案内する早朝ウォークのコースでもある。遠くに臨む新山彦鉄橋にトロッコ電車が通ると、その走行音が峡谷に響く。ひんやりとした峡谷の風を感じながら出かける早朝の1時間。萌葱色の山の色合いに心が癒される。

葭始生(あし はじめてしょうず)

<新山彦鉄橋を渡る始発トロッコ>

4月20日から二十四節気は「穀雨」に入る。二十四節気の春は、立春に始まり穀雨で終わりを告げる。春雨が百穀を潤す事から名付けられ、種まきや田植えの準備の目安となる。変わりやすい春の天気もこの頃から安定し、日差しも強まってくる。七十二侯は「葭始生(あし はじめてしょうず)」で「穀雨」の初侯。水辺の葭が、芽吹き始める頃という意味。

冬期間運休していた黒部峡谷鉄道は桜が満開の中、4月20日より宇奈月・笹平(7km)間で、今期の営業運転を始めた。宇奈月温泉の観光の幕開けである。今年は積雪が少ないので4月29日から終点の欅平までの20.1kmが全線開通する。その間41本のトンネルを抜け25の鉄橋を渡る。残雪が残る黒部の山々は日一日と雪解けが進み、峡谷の水量が増してくる。峡谷沿いにトロッコは走り、萌黄色の回廊を抜けて行く。黒部の峡谷に吹く川風はまだ冷たく、時折桜の花びらを運んでくる。

虹始見(にじ はじめてあらわる)

<昨年の雪の大谷ウォーク>

4月15日から七十二侯は「虹始見(にじ、はじめてあらわる)」で二十四節気「清明」の末侯。萌える山野を背景に驟雨一過、虹が出始める頃という意味。夏の虹に比べると幻想的で、淡くたちまち消えてなくなる。

立山黒部アルペンルートは、本日全線開通の予定であったが、室堂付近の吹雪により高原バスが終日運休となる。明日からの運航に期待したい。一番のハイライトは雪の大谷で今年の雪壁は17mに達する。立山黒部アルペンルートは富山県立山町の立山駅と長野県大町市の扇沢駅とを結ぶ交通路で、総延長37.2kmの国際的にも大規模な山岳観光ルート。ほとんどが中部山岳国立公園内である。

この時期は雪を求める海外のお客様で賑わう。雪に覆われた北アルプスの名座達は白く神々しく輝く。

鴻雁北(こうがん かえる)

<舟川べりの桜並木>

4月10日から七十二侯は「鴻雁北(こうがん かえる)」で二十四節気「清明」の次侯。日本で冬を過ごした雁は列をなして北へと帰って行く頃である。雁が越冬のため日本へやってくるのは二十四節気「寒露」の初侯で七十二候は「鴻雁来(こうがん きたる)」である。すなわち10月8日である。それから半年の間越冬する。

「清明」を迎えると空が明るく澄んで、草木が芽生える。雪国の桜は満開を迎える。富山県朝日町の舟川べりの桜並木は雪を纏った後立山連峰を背景に美しく輝く頃だ。冷たい川風と雪解け水が流れる舟川が桜の花で覆われる早春のひと時である。桜が散ると田圃に水が張られ、田植えの準備が始まる。

玄鳥至(つばめ きたる)

<黒部川扇状地から望む白馬岳>

4月5日から二十四節気は「清明」に入る。清明とは「清浄明潔」の略で「万物発して清浄明潔なればこの芽は何れの草としれる也」と江戸時代に出版された暦の解説書「暦便覧」に記述されている。まさに万物がすがすがしく明るく輝くころである。

七十二侯は「玄鳥至(つばめ きたる)」で二十四節気「清明」の初侯。幻鳥とは燕の事で、燕が南の国からやって来る頃と言う意味。まもなく宇奈月では岩燕の飛行が見られる。岩燕は小型で尾羽の切り込みが浅く英名が「House Martin」、燕は大型で尾羽の切込みが深く「Barn Swallow」でマーチンとスワロウ。日本には繁殖のために飛来し、宇奈月では温泉街から山地にかけて集団で営巣する。

黒部川扇状地から後立山連峰を望むと雪を纏った名峰が神々しく輝く。正面奥の名座は白馬岳(2932m)、隣が旭岳(2867m)と清水岳(2603m)。もうすぐこれに桜とチューリップが加わる華やかな光景が楽しめる。清明ならではの情景である。