冬の根菜類は甘みを増し美味しくなる頃です。蓮根、人参、山芋をそれぞれ含め煮にし、とり合わせます。葛餡をかけても美味しくいただけ、体の芯から温まりますす。
季節のうつわは「織部沓形筒向附」です。沓形とは楕円形の器形を示し、特に茶碗の一形状の沓茶碗に用いられる呼称です。
沓とは、宮中や神社などで用いられ木沓(きぐつ)の形をなし、前後が丸みを帯びていることから、楕円状を指す言葉として用いられたようです。
2024年12月
染付網目蓋付汲出皿
冬の富山湾は、食材の宝庫です。寒鰤、津合蟹、紅津合蟹、毛蟹、のどぐろ、平目、梅貝甘海老、富山海老、真鱈など沢山の種類の魚が水揚げされます。
中でも、冬の真鱈は美味しく、その料理は多彩です。特に白子は美味で、色が白く雲のような見た目なので雲子と呼ばれています。雅膳の一品は、雲子玉地蒸しです。
季節のうつわは「染付網目蓋付汲出皿」で、矢口永寿の作品です。
矢口永寿は、1904年に自宅である山中温泉の湯宿に、京都より永楽保全の門下である滝口加全らの陶工を招き開窯しました。1906年には清水六兵衛の門人・戸山寒山を招き染付磁器を中心に料理の器を多く製作しました。陶芸の他に書画や料理にも秀で、北大路魯山人とも親交があり、すぐれた作品を残しています。
橘始黄(たちばなはじめてきばむ)
12月2日から七十二侯は「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」で、二十四節気「小雪」の末侯となります。
師走に入り、橘が黄金に輝く実をつける頃という意味です。橘とは蜜柑や柚子などの食用になる柑橘類の総称で、古事記や日本書紀にも登場し、万葉集にも多く詠われています。京都御所や平安神宮では「左近の桜」に対して右側に植えられているのが「右近の橘」です。
宇奈月温泉では、これから冬型の気圧配置が強まり、北風が吹き荒れるようになります。日本海に雷鳴がとどろきだすと南下する寒鰤が富山湾の定置網に入ります。雪見露天風呂で温まり津合蟹、寒鰤を食する頃となります。とりわけ鰤しゃぶの旨い季節となります。
西王母(せいおうぼ)
宇奈月の野山に初雪が降りて山野草の終りを告げる頃、心を和ましてくれるのは椿です。西王母は、ツバキ科の早咲きの常緑高木で、11月から春にかけて咲きます。
西王母は、金沢に古くから伝わる名花で、加賀侘助の自然実生と推定されます。桃色紅ぼかしの一重で、中ふくらみの筒咲きの形や、蕾のふっくらとした丸さも茶人に愛されてきました。
椿は、茶花として古くから愛用されてきましたが、昔は藪椿を主体に薄色椿と呼ばれるものが古書に登場します。これは特定の品種を指すものでなく、淡い桃色や特に白色を含めて呼ばれていた品種群を指しています。薄色が愛用されたのには、当時の茶室の明るさとも関係があったのかもしれません。
茶花として用いられる品種は、白玉、初嵐、曙、加茂本阿弥、乙女、太郎庵、西王母、有楽、侘助、太神楽、角倉、妙蓮寺、紅唐子、黒椿、散椿、袖隠、臘月、羽衣等があります。