祥瑞菊形向付

<祥瑞向付>

延楽の雅膳の一皿は「祥瑞菊形向付」で、永楽妙全の作品です。見込みは菊形に浅くかたどってあります。細かく丁寧に正確に文様を入れるのが妙全の特徴です。大正3年に三井高棟より「妙全」の号を受けます。

祥瑞の魅力の一つは、明るくて鮮烈な青である発色の良いコバルトブルーにあります。古染付も同様に青の発色に魅了されます。古染付と祥瑞の違いは何か。一つは、制作された時代の違いだと言われています。古染付は、中国で天啓年間(1621年~27年)を中心に作られ、祥瑞は崇禎年間(1628年~44年)を中心に作られました。

祥瑞は、発色が古染付よりも良く緻密な文様が特徴です。例えば幾何学文を細かく描き、丸文や繋文、螺旋状のねじり文にする独特の文様が特徴です。さらには吉祥文字や宝尽くし文、花鳥文など、祥瑞にふさわしいおめでたい文様が多くあります。今日残っている古い祥瑞は当初、茶人の注文品として中国で製作されました。謎の多い祥瑞です。

祥瑞や古染付の名品を多く所蔵しているのが、諏訪湖畔にあるサンリツ服部美術館です。東洋陶磁の中心になっている作品は、服部時計店三代目社長の服部正次の岳父である塩原又策のコレクションです。塩原又策は三共製薬の創業者で、茶人でもあり美術収集家でもありました。恩人である高峰譲吉の計画に従って大正8年(1919)、三共(株)の本社内に東洋アルミナム株式会社を立ち上げます。そしてアルミ精錬に必要な電力を得るため、黒部川の電源開発を進めていきます。工事作業員の福利厚生のため大正12年(1923)に黒薙から宇奈月の地に温泉が引かれます。宇奈月温泉の誕生です。

雉始雊(きじはじめてなく)

<雪に覆われた黒部川扇状地>

1月15日から七十二侯は「雉始雊(きじはじめてなく)」で、二十四節気「小寒」の末侯となります。雉子の求愛が始まる頃という意味です。

雉の雄は、雌を呼び込むために甲高い声で鳴きます。黒部川下流の黒部川扇状地では、雉の求愛行動が活発化する時期ですが、大地が雪に覆われているので、まだ先の話です。今日は延楽の松の内の終わりで、松飾りを取り外し左義長で見送ります。

左義長は、毎年2月の第一土曜日に開催される「宇奈月温泉雪カーニバル」に合わせて、宇奈月公園で行われます。左義長に点火されると、炎が夜空に勢いよく舞い上がり、歳神様もその炎に乗って天に帰るとされています。竹の炸裂音から、地域によっては、どんど焼きともいいます。併せて雪上花火が打ち上げられるので、凄まじい炸裂音が宇奈月温泉に響き渡ります。

今年の花火と左義長は、能登半島地震の被災地の復興と、被災された皆様の生活が平穏に戻ることを祈願して行います。

亀甲松竹梅蒔絵吸物椀

<亀甲仕上げ>

お椀全体に蒔絵を施してあると、周りが華やかになります。お椀も季節に合わせて使いたいものです。漆は年代を重ねると堅固になります。

雅膳の季節のうつわは「亀甲松竹梅蒔絵吸物椀」です。京塗りの吸い物椀です。

赤絵花鳥長方皿

<のどぐろ若狭焼>

匠膳の焼き物は、のど黒の若狭焼です。照り地を掛けてじっくり焼きます。 のど黒は、脂がのった美味しい魚で地元では魚神(ギョシン)ともいいます。 仕入れの関係で甘鯛に変更になる場合もあります。

季節のうつわは「赤絵花鳥長方皿」です。赤絵とは、釉薬をつけて本焼きした陶磁器に上絵具で文様や図案を描き、赤絵窯で焼き付ける加飾法及びその陶磁器のことです。赤絵染付の語から赤絵となりました。色絵、錦手、五彩とも呼びます。

日本における赤絵の始まりは、1647年頃、酒井田柿右衛門が中国人に学んで習得しました。そして赤を中心に豊かな色彩を表現できる技法が編み出されました。

日本の愛陶家は、中国陶磁を宋時代の宋赤絵、明時代の古赤絵、万歴赤絵、天啓赤絵、呉須赤絵、明末清初の南京赤絵と色々と呼び分けてきました。赤絵は何故か、朝鮮半島では試みられることがありませんでした。

1720年代、マイセン窯で白磁胎赤絵が焼かれるようになりました。モデルとなったのが日本から輸入されていた柿右衛門様式の色絵磁器です。

乾山写雪笹小判形向付

<雲子天婦羅>

富山湾に雪が降りだすと、真鱈が美味しくなります。特に真鱈の白子は新鮮なうちにポン酢でいただきます。白子は、雲を連想させるので雲子とやばれています。アツアツの天婦羅は格別です。地酒も進みます。

季節のうつわは「乾山写雪笹小判形向付」です。乾山の「銹絵雪笹向付」が本歌で、仁阿弥道八や魯山人にも受け継がれました。笹に舞い降りる雪を白化粧で見事に表しています。

高麗鶴形蓋物

<祝膳の器>

お正月や祝膳などに使う器に鶴、亀、松竹梅などを模ったりする器があります。蓋物にも多く見られます。

季節のうつわは「高麗鶴形蓋物」で、祝い膳に使います。
白磁の蓋物に鶴の造形がしてあり、純白で清楚な器です。

仁清色絵梅絵五寸皿

<白梅図>

香箱蟹は、資源保護のため1月10日で漁が終了となります。暖かい地方から梅の開花が届く頃となりました。

季節のうつわは「仁清色絵梅絵五寸皿」です。香箱蟹は華やかな色絵があいます。
色絵とは上絵付け陶磁の総称で、赤絵、錦手ともいい、中国では五彩とも言います。
今日のいう色絵の概念は、大正から昭和の間に用いられ始めたようです。

水泉動(しみずあたたかをふくむ)

<水鳥が飛来する黒部川>

1月10日から七十二侯は、「水泉動(しみずあたたかをふくむ)」で、二十四節気「小寒」の次侯となります。冬至から甦った陽光によって、地面が少しづつ温められます。「水泉」とは、湧き出でる泉の意味で、地中で凍っていた泉水が、ゆるやかながら動きだす頃と言う意味です。

出典の中国の宣明暦では「鵲始巣」で、鵲(かささぎ)が巣を作り始める頃という意味です。宣明暦は、平安時代初期に中国から入ってきた暦で、唐の徐昴によって作られました。その後、江戸時代に大統歴、貞享歴と変わり、1754(宝暦4)年、渋川春海によって日本初の宝暦歴に改められました。併せて七十二候も日本の気候風土に合うように改定されました。

11日は、鏡開きで、所によっては15日の処もあります。鏡餅の割れが多いとその年は豊作になると言われています。小寒に入ると雪の降る日が続き、その合間に穏やかな日があります。眼下に流れる黒部川では水鳥が水の流れに乗って移動していくのが観察できます。本格的な寒さは、これからです。

色絵透雪笹小鉢

<蟹味噌と身抜き>

雪がしんしんと降り積もる宇奈月温泉。温泉につかりながらの雪見は、最高のおもてなしで風情があります。

1月5日から二十四節気の「小寒」に入りました。寒の内の富山湾の旬味は、ますます旨味が増してきます。その日の仕入れにより、蟹味噌、真鱈の白子、とらふぐの湯引き、車鯛の肝、寒カワハギの肝、鮟鱇の肝等々。酒のあてには最高の珍味で、雅膳の一皿です。あわせる地酒は、純米吟醸「勝駒」がお薦めです。

季節のうつは「色絵透雪笹小鉢」です。 笹に雪が積もる光景は様々に文様化され、うつわに取り入れられています。冬の美しい形の一つで、乾山写しにも見られます。

黄瀬戸片口中皿

<油揚げ肌の片口>>

富山湾を代表する冬の味覚の寒鰤は、小寒に入ると一段と旨味が増してきます。昨年11月20日に「寒鰤宣言」が出されてから、豊漁が続き漁業市場も活況を呈しています。昨年からひみ寒鰤の重さ基準は6kg以上から7kg以上に引き上げられました。大物は脂が乗り、特に腹身は上質な脂が乗り、お刺身に大根おろしを添えて食すると格別です。

季節のうつわは「黄瀬戸片口中皿」で、加藤作助の作品です。しっとりと潤いのある油揚げ肌の黄瀬戸の器にあいます。