玉川杜鵑(タマガワホトトギス) ユリ科

<草叢の中に生えるホトトギス>

玉川杜鵑草(タマガワホトトギス)は、宇奈月の深山の湿り気のある木陰に自生するユリ科の多年草です。 萌黄色の葉と黄色の花のコントラストが美しく、宇奈月僧ヶ岳登山道の落葉樹林縁で見かけます。

葉は、広楕円形で先が尖り、基部は茎を抱き、葉脈がはっきりしています。7~8月、茎頂に散房花序を出し黄色の花をつけます。花柄には腺毛が密生し花の内側に紫紅色の小斑点があります。杜鵑の胸のあたりの模様に似ているところから和名が付けられました。

冠の玉川の由来は、京都木津川支流の玉川で、 玉川堤は、山吹の名所として知られ、奈良線の玉水駅の近くにあります。 古くは奈良時代に遡り、橘諸兄がこの近くに邸を構え、万葉集に山吹を数多く詠っています。平安時代には歌枕の地となり、玉川と言えば山吹を連想するようになりました。 黄金色を山吹に見立て、玉川を連想して和名を付けるところは、日本人の自然を愛しむ心の現れです。

鵯花(ヒヨドリバナ) キク科

<アサギマダラが好む鵯花>

鵯花(ヒヨドリバナ)は、宇奈月の山路や日当たりの良い草原などに生えるキク科の多年草です。

茎は高さ1mから2mと大きく全体にざらつきがあり、紫色の細点があります。葉は対生し、卵状長楕円形で縁に鋸歯があります。初夏、茎頂に白色、稀に帯紫色の多数の頭花を散房状につけます。鵯の鳴くころに開花するのでこの名前が付きました。アサギマダラが好む花です。

アサギマダラは、浅葱色(青緑色)が美しい蝶で、春から夏の初めにかけて本州の1000m以上の涼しい高原地帯で繁殖します。鵯花に集まるのはほとんどがオスです。オスは性フェロモン分泌のために、そこに含まれる毒性のピロジジンアルカロイドの摂取が必要と言われています。

移動中に白いタオルを振りかざすとよく集まってくる、面白い習性を持っています。
この習性を利用して一時的に捕獲をして、翅のマーキングを見てどこから飛んできたのか調べます。秋には南下を始める興味深い蝶です。

花乳茸挿(ハナチダケサシ) ユキノシタ科

<赤升麻よりも小型>

花乳茸刺(ハナチダケサシ)は、宇奈月の深山の樹林の縁に生えるユキノシタ科の多年草です。

本州の中部地方の山地や亜高山の樹林内に分布する日本固有種です。分類上は赤升麻(アカショウマ)の変種とされ、茎が赤いという赤升麻の特徴が良く出ています。葉は、赤升麻同様互生し3回3出複葉で、小葉は卵型で縁には重鋸歯があります。茎先によく枝分かれした円錐花序を出し、白色の小花を数多くつけます。その甘い臭いに誘われて多くの虫達が群がります。

チダケとは茸のことで、傷をつけると白い乳液が出るので乳茸とよばれています。和名は、茸を本種の茎にさして持ち帰ったことが由来となっています。

糊空木(ノリウツギ) ユキノシタ科

<両性花に虫たちが集まる>

糊空木(ノリウツギ)は、宇奈月の山野に生えるユキノシタ科、アジサイ属の落葉低木です。

樹高は2~7mくらいになり、よく分枝しますます。葉は、大きく卵形で葉柄があり対生し、縁は鋸歯状になります。7月、新梢の先に白色の小さな両性花が多数つく円錐花序を付けます。その中に花弁4枚の大きな装飾花が混ざります。

和名は、樹液を和紙を漉く際の糊に利用したのと、枝が空木に似ていることに由来しています。別名ノリノキとも言います。宇奈月の登山道でよく見かけ、雨に濡れた白い装飾花がひときわ目立ちます。 小さな両性花に、ハナカミキリやハナムグリ等の訪花性の昆虫が多く集まります。

露草(ツユクサ) ツユクサ科

<朝露を帯びた露草>

露草(ツユクサ)は、宇奈月の林道沿いでやや湿った所で見られるツユクサ科の一年草です。

大きな背丈のイタドリやタケニグサ等の下で、青い可憐な花を咲かせます。内花被3片のうち2片が立ち上げっている様は、鈴虫が羽を広げて啼いているところを連想します。

花は、朝開いて昼にはしぼみます。露を帯びた草の意味からこの名前がつきました。 その他に、万葉集では「月草」として詠われ、日本画では露草と蛍を描いた作品が多くあり、「蛍草」ともよばれている所以です。

接骨木(ニワトコ) スイカズラ科 

<花が終わると赤く結実します>

接骨木(ニワトコ)は、宇奈月の低山から深山に生えるスイカズラ科の落葉性の低木から小高木です。

葉は、奇数羽状複葉で対生し、小葉は2から3対しています。5月から8月にかけて新枝の先に円錐花序をつけ、小さな白い花をたくさんつけます。紫色の雌しべの周りを5本の雄しべが取り囲んでいます。

和名は、枝や幹の黒焼は、骨折や打ち身に効目があることに由来しています。
宇奈月の深山では7月初旬から8月初旬に花が咲きます。

白山大戟(ハクサンダイゲキ) トウダイグサ科

<杯状花序が特徴>

白山大戟(ハクサンダイゲキ)は宇奈月の高山の草地に自生するトウダイグサ科の多年草です。野漆に似ているところから深山野漆(ミヤマノウルシ)とも呼ばれています。

茎は直立し高さは50cm程になります。葉は狭長楕円形で互生し、主脈がはっきりしています。茎の先の葉は丸くて輪生します。
花序は杯状で花弁はなく、茎や葉の白い乳液は有毒です。根茎の漢方名は大戟(たいげき)といい,利尿剤に用いられました。唐松岳の宇奈月側や長野県側に多く見られます。

岩下野(イワシモツケ) バラ科

<岩場を好む花>

岩下野(イワシモツケ)は、宇奈月の高山帯の日当たりのよい岩場に自生するバラ科の落葉低木です。よく分岐して横に広がります。

葉は、厚みがあり1~5cmの長楕円形で、先に鈍鋸歯があり両面は無毛です。霧が明けると葉には多くの水滴が残ります。旭岳から清水岳の登山道沿いの岩場では7月、短い新枝の先に散房花序をつけ、白色の5弁花を多数つけます。

深山苧環(ミヤマオダマキ) キンポウゲ科

<霧に包まれてひっそり咲く>

深山苧環(ミヤマオダマキ)は、宇奈月の高山帯の岩場や岩礫地に自生する、キンポウゲ科の多年草です。

根茎は太く、茎の高さは10~20cmで上部でまばらに分岐します。葉は根出葉と茎葉があり、根出葉は2回3出複葉で3~10枚出ます。小葉は扇形で3裂して裂片はくさび形をなし、縁には丸く大きな鋸歯があります。

茎頂に花径3cmほどの花を1~2個下向きにつけます。外側の鮮紫色の花弁状のものは萼片で5個あり広卵状披針形です。内側の5個の花弁はやや短く長方形で、弁先は黄白色で基部は紫色で長い距があります。

和名は、花の形が紡いだ麻糸を巻いた苧環に似ていることに由来しています。

岩爪草(イワツメクサ) ナデシコ科

<黒部峡谷・清水岳の頂上付近の岩場に群生する>

岩爪草(イワツメクサ)は、宇奈月の高山の岩場に群生するナデシコ科の多年草です。

茎は直立し、高さ5~20cmなります。葉は細長く密集します。花は白色で5弁花ですが、真ん中に深い切れ込みがあるので花弁が10枚に見えます。ナデシコ科の深山繁縷(ミヤマハコベ)も同様です。

宇奈月の名座「清水岳(標高2603m)」は、白馬岳から黒部峡谷・祖母谷温泉へ至る登山道の途中にある山で、白馬岳の前衛峰に当たります。山頂付近は傾斜がなだらかで高山植物が多く分布します。黒羽川扇状地を眼下に眺めながらの雪渓下りは最高の醍醐味です。