染付祥瑞小鉢

<白海老と唐墨>

宇奈月温泉周辺の桜が開花すると、富山湾の白海老漁が活気づいてきます。大量に獲れるのは、富山湾奥部に位置する小矢部・庄川海谷、富山市岩瀬沖の神通海谷および水橋沖の常願寺海谷の3カ所だけです。海谷とは海底の峡谷のことで、小型底引き網でその壁を掻き上げるように操業します。

雅膳の一皿は、白海老と唐墨の取り合わせです。合わせるお酒は、桝田酒造の「満寿泉大吟醸」です。

季節のうつわは「染付祥瑞小鉢」で永楽妙全の作品です。落ち着いた呉須の色合いは、白海老と唐墨を引き立ててくれます。

檀香梅(ダンコウバイ) クスノキ科

<葉が芽吹く前に花をつける>

檀香梅(ダンコウバイ)は、宇奈月の山地に生えるクスノキ科クロモジ属の落葉低木で、成木は樹高3mから6mにもなります。葉は互生し長さ5cmから15cmの卵円形で、基部は幅広く先端で浅く三裂し折るとクスヌキ科特有の芳香があります。

出葉前の3月末頃から開花する春を告げる花です。前年枝の葉腋に散形花序を付け、各花序に無数の黄色い花を付けます。枝や葉と同様に芳香があります。花はやがて緑色の球形の果実になり、秋に赤紫色に熟し種子に強い芳香を含ませます。名前の由来となっている檀香は白檀(ビャクダン)のことです。

丁字桜(チョウジザクラ) バラ科

<下向きに開花する>

丁字桜は、宇奈月の山地や谷筋に生えるバラ科の落葉小高木で、変種も多くあり日当たりの良いところを好みます。

葉は、倒卵形で先が細長くなり、縁には深い重鋸歯があり表裏両面に毛があります。花は葉とともに出て、一芽から1個または2個の花を下げます。平開した白い花弁と細長い顎筒との形が丁字に見えるのが名前の由来です。




立坪菫(タチツボスミレ) スミレ科

<立坪菫の特徴は葉先が尖っている>

立坪菫は(タチツボスミレ)は、宇奈月の山野や低地等に普通に見られるスミレ科の多年草です。

茎は地下茎は短く、根出葉は細い葉柄があって葉身は2cmぐらいです。卵円形で葉先がとがっているのでオオタチツボスミレと区別ができます。花径は茎の下部と上部葉腋から花柄を出し淡紫色の小花を横向きに開きます。

立坪菫は、分布域が全国に広がり生育環境もそれぞれ違うので、野菊のように地域による個体変異が多いのが特徴です。野山で菫を見つけると、春が来た喜びが湧いてきます。

山榛の木(ヤマハンノキ) カバノキ科

<うなづき湖畔に多く見られる>

山榛の木(ヤマハンノキ)は宇奈月の沢筋やうなづきダム湖周辺に自生するカバノキ科の落葉高木です。

高さは、約15mにもなり、葉は互生し単葉、有柄で葉裏には毛がありません。毛が多くある物は、毛山榛の木で見分けが難しいです。葉身は広楕円形で縁に浅い欠刻状の重鋸歯があります。

花は、3月から4月に葉が開く前に咲かせます。雄花序は枝先の葉腋に尾状花序を2から4個つけ、雌花序はその下に3から5個付け、秋には紫褐色で楕円形の球果を付けます。冬には熟し松かさ状の果穂になります。

鴻雁北(こうがんかえる)

<朝日町舟川べりの桜並木>

4月9日から七十二侯は「鴻雁北(こうがんかえる)」で、二十四節気「清明」の次侯となります。日本で冬を過ごした雁は、列をなして北へと帰って行く頃です。雁が越冬のため日本へやってくるのは、七十二候の「鴻雁来(こうがんきたる)」の頃で、二十四節気「寒露」の初侯にあたります。すなわち10月8日前後で、それから半年間、日本で越冬します。

二十四節気「清明」を迎えると空が明るく澄んで草木が芽生え、雪国の桜は満開となります。富山県朝日町の舟川べりの桜並木は、雪を纏った後立山連峰を背景に美しい輝きを見せてくれます。冷たい川風と雪解け水が流れる舟川が、桜の花で覆われる早春のひと時です。今年の満開予想は11日頃で、桜吹雪は14日頃となります。桜が散ると田圃に水が張られ、田植えの準備が始まります。

片栗(カタクリ) ユリ科

<落葉樹林内で開く片栗の花>

片栗(カタクリ)は、宇奈月の落葉樹林内で群生するユリ科の多年草です。雪が解けた落葉樹林内で冷たい風に揺れながらひっそりと咲いています。

「万葉集」では堅香子(カタカゴ)の花として詠われ、かつては鱗茎から片栗粉を取り出したのが名前の由来です。『物部(もののふ)の 八十少女(やそおとめ)らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子(かたかご)の花』(万葉集第十九巻4143)と大伴家持が万葉集で詠んでいます。

大伴家持は、「令和」の出典「梅花の歌」の詠み人、大伴旅人の長子で、国司として5年間越中に赴任しています。越中の国衙が置かれていた場所は、現在の高岡市伏木古国府、浄土真宗本願寺派の古刹国宝「雲龍山勝興寺」のあたりです。

その古刹の北側に伏木神社があり、神社の西側に「万葉寺井の址」が残されています。待ちわびた北国の春に思いを寄せる家持の目には、清水を汲みに井戸に集まる乙女たちの笑い声と、その乙女たちを象徴するように咲いている堅香子(かたくり)が重なって見えたのかもしれません。

落葉樹の葉が広がり、樹林内の陽光が弱まると片栗の姿が瞬く間に消えてしまいます。スプリング・エフェメラルです。

輪島塗・青貝千鳥波蒔絵銘々皿

<青貝の輝きが美しい螺鈿>

才巻海老が旬を迎えます。才巻海老とは、車海老の小型のもので、味が濃くて天麩羅に最適です。

季節のうつわは「輪島塗・青貝千鳥波蒔絵銘々皿」で、 螺鈿(らでん)が美しく輝きます。使用される貝は、夜光貝、白蝶貝、黒蝶貝、川真珠貝(青貝)、鮑、阿古屋貝(真珠貝)などがあります。輪島の復旧、復興を心より願っています。

染付山水輪花向付

<白海老と湯葉との取り合わせ>

匠膳の強肴は、今が旬の白海老の「東寺巻」です。白海老と湯葉の両方の甘味が絶妙に溶け合います。 白海老は、淡紅色を帯びた透き通るような姿なので、富山湾の宝石と呼ばれています。

季節の器は、藍青色の「染付山水輪花向付」です。コバルトブルーの色合いに白海老がよく似合います。

紅葉苺(モミジイチゴ) バラ科

<棘が多い紅葉苺>

紅葉苺(モミジイチゴ)は、宇奈月の野山に野生するバラ科の落葉低木です。葉が掌状に五裂し、紅葉のように切れ込むのでこの名がつけられました。

低木はよく分岐し、根は横に伸びて茎を立てます。茎には毛はないが棘が多くあります。4月に前年枝の各葉腋から下部に葉をつけた花径を出して、白色で5弁の花一輪を下向けにつけます。果実も垂れ下がり熟すと黄色くなり、美味です。