熊蟄穴(くまあなにこもる)

<北陸新幹線・黒部宇奈月温泉駅から白馬岳を望む>

12月12日から七十二侯は「熊蟄穴(くまあなにこもる)」で、二十四節気の「大雪」の次侯となります。熊が厳しい冬を乗り越えるために穴にこもる頃という意味です。

例年この時期は、シベリアから寒気団が南下し北陸に雪をもたらします。本格的な降雪は、二十四節気の「冬至」に入ってからと予測されます。

北陸新幹線が、新潟県と富山県の県境のトンネルを抜けて、富山県朝日町の平野部に出るとその眺めに圧倒されます。左手には新雪に輝く北アルプス、右手には能登半島と富山湾の景色が広がります。その名座と富山湾の深海の高低差は約4千メートル。まさに初冬の絶景です。

焼締片口皿

<津合蟹の洗い>

透き通るような活蟹の身を、氷水にさらすと花が咲きます。とろけるような食感の中に濃い甘みが口いっぱいに広がります。蟹会席の一皿の蟹の洗いです。

季節のうつわは「焼締片口皿」です。荒木義隆氏の焼締めは、土肌を感じながらも造形が美しいので料理を引き立ててくれます。

仁清色絵南天絵向附

<寒鰤造り>

今が旬の寒鰤は、上質な脂がのっています。甘くて旨味のある脂は、全く臭みがなく身も引き締まり、コリコリとしています。大根おろしと醤油でいただくお造りは、富山湾の格別な冬の恵です。

季節のうつわは「仁清色絵南天絵向附」です。赤絵と緑釉に金彩が使われているので華やかにな彩りとなります。

青白瓷八面取向附

<蟹の洗い>

蟹の洗いは、透き通るような活蟹の身を、氷水にさらすと花が咲きます。とろけるような食感の中に濃い甘みが口いっぱいに広がります。蟹会席の一皿です。

季節のうつわは「青白瓷八面取向附」です。

白磁は、鉄分など不純物が少ないカオリンなどの白色粘土や陶石などの白い素地に、透明釉をかけて焼成したものです。微量の鉄分などの不純物が含まれると還元焼成すると淡い青みを帯びて発色します。これが青白瓷です。

色絵椿絵向附

<艶やかな紅白の椿の色絵>

冬型の気圧配置が強まり、寒さが増すと蕪蒸しが美味しくなります。二十四節気の「大雪」に入りました。おろした蕪を雪に見立てるのは、和食の妙です。具は、朝どれの甘鯛を使います。

季節のうつわは「色絵椿絵向附」です。 重々しい灰色の雪雲が空を塞ぐ日が多くなる頃は、色絵の器で食卓を華やかにします。

閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)

<雪化粧が美しい黒部の山々>

12月7日から二十四節気は「大雪」に入ります。木々の葉はすっかり散り終え、雪の日が多くなります。七十二侯は「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」で「大雪」の初侯となります。天も地も寒さで塞がれ、本格的な冬到来の頃という意味です。

宇奈月温泉を取り巻く山々は雪化粧。黒部川の水面近くの名残の紅葉が、季節の移ろいを感じさせます。季節は日一日と真冬へと向かっていきます。生き物たちは厳しく、美しい雪の世界で冬ごもりを始めます。

雪景色は、最も宇奈月温泉らしい風情を醸し出します。加えて湯量豊富な温泉と富山湾の海の幸は、芸術家達を魅了してきました。延楽にゆかりのある川合玉堂、中川一政、小杉放庵、堅山南風、榊原紫峰等の巨匠の作品が館内に展示されています。峡谷に面した延楽は、稜線の雪を愛でるのに最も適したところにあります。

仁清水玉透向附

<毛蟹の柚子釜>

富山湾では津合蟹、紅津合蟹は、冬の味覚として知られていますが、毛蟹は知られていません。あまり市場に出回らないので、馴染みがありません。秋から冬にかけてが旬です。滞在の料理として使います。

季節のうつわは「仁清水玉透向附」で、仁清の写しです。本歌は畠山記念館、MIHO MYUSEUMに所蔵されている「白釉円孔透鉢」で、シンプルでかつシャープな造形は、現代の工芸品にもひけのとらない斬新さがあります。色絵を使わずにシンプルな色合いは仁清の多才さを感じさせます。

染付桔梗千筋七寸皿

<如月王の薄造り>

冬になると富山湾では、ウマヅラハギが大量に水揚げされます。12月から3月まで多く水揚げされます。頭部が長くウマヅラに似ていることからウマヅラカワハギと呼ばれています。中でも体調25cm以上の大物を「魚津寒ハギ・如月王」と名付けてブランド化しています。特に薄造りがおすすめで、肝は格別に美味しいです。

季節の器は、「染付桔梗千筋七寸皿」です。桔梗の形を何重にも線で表現しています。薄造りに合います。

織部沓形筒向附

<冬野菜焚合>

冬の根菜類は甘みを増し美味しくなる頃です。蓮根、人参、山芋をそれぞれ含め煮にし、とり合わせます。葛餡をかけても美味しくいただけ、体の芯から温まりますす。

季節のうつわは「織部沓形筒向附」です。沓形とは楕円形の器形を示し、特に茶碗の一形状の沓茶碗に用いられる呼称です。

沓とは、宮中や神社などで用いられ木沓(きぐつ)の形をなし、前後が丸みを帯びていることから、楕円状を指す言葉として用いられたようです。

染付網目蓋付汲出皿

<器全体が染付の網目で覆わる>

冬の富山湾は、食材の宝庫です。寒鰤、津合蟹、紅津合蟹、毛蟹、のどぐろ、平目、梅貝甘海老、富山海老、真鱈など沢山の種類の魚が水揚げされます。

中でも、冬の真鱈は美味しく、その料理は多彩です。特に白子は美味で、色が白く雲のような見た目なので雲子と呼ばれています。雅膳の一品は、雲子玉地蒸しです。

季節のうつわは「染付網目蓋付汲出皿」で、矢口永寿の作品です。

矢口永寿は、1904年に自宅である山中温泉の湯宿に、京都より永楽保全の門下である滝口加全らの陶工を招き開窯しました。1906年には清水六兵衛の門人・戸山寒山を招き染付磁器を中心に料理の器を多く製作しました。陶芸の他に書画や料理にも秀で、北大路魯山人とも親交があり、すぐれた作品を残しています。