12月2日から七十二侯は「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」で、二十四節気「小雪」の末侯となります。
師走に入り、橘が黄金に輝く実をつける頃という意味です。橘とは蜜柑や柚子などの食用になる柑橘類の総称で、古事記や日本書紀にも登場し、万葉集にも多く詠われています。京都御所や平安神宮では「左近の桜」に対して右側に植えられているのが「右近の橘」です。
宇奈月温泉では、これから冬型の気圧配置が強まり、北風が吹き荒れるようになります。日本海に雷鳴がとどろきだすと南下する寒鰤が富山湾の定置網に入ります。雪見露天風呂で温まり津合蟹、寒鰤を食する頃となります。とりわけ鰤しゃぶの旨い季節となります。
西王母(せいおうぼ)
宇奈月の野山に初雪が降りて山野草の終りを告げる頃、心を和ましてくれるのは椿です。西王母は、ツバキ科の早咲きの常緑高木で、11月から春にかけて咲きます。
西王母は、金沢に古くから伝わる名花で、加賀侘助の自然実生と推定されます。桃色紅ぼかしの一重で、中ふくらみの筒咲きの形や、蕾のふっくらとした丸さも茶人に愛されてきました。
椿は、茶花として古くから愛用されてきましたが、昔は藪椿を主体に薄色椿と呼ばれるものが古書に登場します。これは特定の品種を指すものでなく、淡い桃色や特に白色を含めて呼ばれていた品種群を指しています。薄色が愛用されたのには、当時の茶室の明るさとも関係があったのかもしれません。
茶花として用いられる品種は、白玉、初嵐、曙、加茂本阿弥、乙女、太郎庵、西王母、有楽、侘助、太神楽、角倉、妙蓮寺、紅唐子、黒椿、散椿、袖隠、臘月、羽衣等があります。
仁清色絵椿絵皿
黒部漁港では、平目が多く水揚げされます。料理は多彩で、薄造り、昆布締め、煮付け、しゃぶしゃぶ、フライ、天麩羅などで美味しくいただけます。
平目は、鰈とともに異体類に属し、体は扁平で眼が片側に偏って並んでいます。見分け方は、眼のある表の腹部を手前にし、頭が左にくれば平目、右にくれば鰈です。鰈類に左に頭がくる種類があります。平目でも、稀に右に頭が来るのもあります。確実なのは大きな口で鋭い歯が生えているのが平目で、おちょぼ口が鰈です。これは捕獲するえさの違いからきています。
季節のうつわは「仁清色絵椿絵皿」です。紅白と緑釉の色合いが料理を引き立ててくれます。
金彩赤絵向付
11月末に起きる雷を伴った荒天を地元では、御満座荒れと呼んでいます。寒鰤の豊漁の前触れで、昔から鰤お越しと呼ばれています。
御満座とは、浄土真宗の開祖親鸞の命日「御正忌」のことで、11月28日です。この時期は、北西の季節風が吹きだし、よく雷鳴がとどろきます。熱心な真宗の信者である漁師達は、この荒天を御満座荒れと呼んだ事に由来します。
寒鰤の美味しい時期となりました。脂の乘った刺身は大根おろしを添えて食します。お薦めの地酒は、千代鶴酒造の純米生原酒「恵田」です。
季節のうつわは「金彩赤絵向付」で永楽和全の作品です。
和全は、幕末から明治期にかけて活躍した京焼の12代善五郎です。44歳で隠居した後、大聖寺藩に招かれて九谷焼の指導を行い、再興九谷の発展に尽くします。
金襴手、呉須赤絵、染付、万暦赤絵、安南など写し物に優れた才を発揮し、九谷焼に影響を与えます。
焼締片口皿
北陸では、11月末から「冬期雷」といって雷鳴がよく発生します。富山湾に地響きのような激しい雷鳴が轟き渡ると強風が吹き荒れ、沖合では大シケが続きます。鰤が富山湾に入ってくる合図の「鰤起こし」です。
11月28日は親鸞聖人の命日です。昔から天候がよく荒れるので、真宗門徒の多い富山では、「御満座(ごまんざ)荒れ」と呼んでいます。
いよいよ寒鰤のシーズンの到来で市場では大物が並び、活況を呈します。延楽では脂の乗った寒鰤と、湯量豊富な温泉が味わえる好季節を迎えます。
季節のうつわは「焼締片口皿」で、荒木義隆さんの作品です。荒木さんといえば焼締めです。土の風合いをストレートに伝える焼締の作品に、寒鰤の造りを添えました。
朔風払葉(きたかぜ このはをはらう)
11月27日から七十二侯は「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」で、二十四節気「小雪」の次侯となります。朔とは北の方角なので朔風は北風のことです。北風が吹いて木の葉を散らす頃という意味です。
黒部峡谷鉄道は11月30日で営業終了となります。宇奈月温泉周辺の木々は、まだまだ色濃い紅葉の葉を残し、晩秋ならではの深い色合いとなっています。山彦遊歩道は、錦色に染まった落葉で綾錦の絨毯を敷き詰めたかのようです。
セレネ美術館の収蔵作品に、黒部の落葉をとらえた手塚雄二氏の「終宴」があります。セレネ美術館に収まった初期の作品で、奥黒部の十字峡での取材を終えて岐路についた時、断崖絶壁の日電歩道に色付いた葉がヒラヒラと舞い落ちてきました。晩秋の黒部の印象を描いた作品です。
これから黒部の峡谷は、雪と紅葉が織りなす幽玄の世界に入ります。
乾山写寿見込向付
冬の富山湾の代表的な食材は「香箱蟹」です。津合蟹の雌で資源保護の観点から漁の期間は短く、11月6日から1月10日までと定められています。冬の海に隠された赤い宝石と呼ばれ、寒鰤とともに人気の冬の味覚です。
特に、甲羅の中の赤い内子や、お腹の外側にある外子は絶品で地酒と合います。活蟹会席の一皿で格別の旨味が味わえます。濃厚な蟹味噌もお勧めです。
季節のうつわは「乾山写寿見込向付」です。赤絵の器に赤い香箱が美しく映えて、絶妙の取り合わせです。
輪島塗・牡丹蒔絵吸物椀
活蟹会席の吸物は、蟹真丈の吸物です。津和井蟹の旨味を含んだ真丈は、一番出汁で上質な味わいとなります。
この後の料理は蟹の洗い、焼蟹と続きます。最初のお酒は、千代鶴酒造の恵田(2年間低温熟成)で始めて、その後は勝駒純米吟醸と進めます。勝駒純米吟醸は、冷酒でもぬる燗でも料理に合います。
器は、「輪島塗・牡丹蒔絵吸物椀」です。修復が終わって新しく蘇ったお椀です。牡丹の季節は春から初夏にかけてですが、真新しくなったので使ってみました。
緑釉透亀甲紋向附
冬型の気圧配置が強まると、寒ブリの群れが富山湾に仕掛けられた定置網に入ります。寒鰤のシーズン到来を告げる「寒ブリ宣言」は、もう間もなくです。
地響を伴った激しい雷鳴が轟き渡るのは、11月末から1月の間にかけて。北陸特有の冬期雷です。富山湾に強風が吹き荒れ、沖合では大シケが続き閃光が走ります。鰤の豊漁を告げる「鰤起こし」と呼ばれる気象現象です。
寒鰤のお造りは、上質な脂がのっていて絶品です。富山の地酒「勝駒純米大吟醸」、林酒造の「大吟醸黒部峡」が合います。
季節のうつわは「緑釉透亀甲紋向附」です。亀甲紋の透かしを大胆に取り入れた作品です。
祥瑞丸文蓋物
氷見漁協より「寒ぶり宣言」が出されると、富山湾の鰤漁が本格化します。氷見寒鰤の登録判定基準は、今年から7kg以上で定置網でとれた物に限ります。寒鰤の脂は、生臭みが全くないので、薄味で焚く蕪との取り合わせは、味の妙です。一般的には鰤と大根を濃味で焚く鰤大根が、郷土料理として親しまれています。
季節のうつわは「祥瑞丸文蓋物」です。藍青色の染付は、寒鰤の腹身の部位を美しく見せてくれます。見込みの細かな瓔珞紋様は器を引き立たせ、丁寧な筆の運びは見る人を和ませます。永楽妙全の作です。