虹蔵不見(にじかくれてみえず)

<活け蟹料理:焼蟹>

11月22日から二十四節気は「小雪」となります。小雪は、降る雪の量がさほど多くないことに由来しています。本格的な冬はもう少し先ですが、宇奈月温泉では「風花」が舞うことがあります。

七十二侯は「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」で二十四節気「小雪」の初侯にあたります。「蔵」は隠れると読みます。この時期は日差しが弱まり、空が曇ることが多くなるため、虹が出てもすぐ消えてしまいます。

冬の宇奈月は食材が豊富です。とりわけ日本海で水揚げされる津合蟹(ズワイガニ)は、旨味を増してきます。延楽では満を持して活け蟹会席が始まりました。お造りの美味しさもさることながら、焼きガニの味わいは格別です。焼蟹は火加減や焼き方が難しいので、プロに焼いてもらうのが一番です。延楽では焼蟹の熟練者が、お客様の目の前で焼きます。

お部屋の露天風呂から晩秋の紅葉を眺めながら山間の温泉風情を楽しむ、晩秋から初冬にかけての延楽ならではの味わいです。

金箔散六寸皿

<今が旬の香箱蟹>

香箱蟹(こうばこがに)は、津和井蟹の雌で雄と比べるとかなり小ぶりです。活蟹会席の一皿です。サイズが小さいので、丁寧に身を抜き甲羅に盛り付けます。つぶつぶの茶色の卵は外子で特別の食感が味わえます。旨みが凝縮された味噌とオレンジ色の内子は濃厚な味で格別の旨みがあります。

季節のうつわは「金箔散六寸皿」です。黄金の輝きに中に、香箱の赤色が映えます。

白高麗銀彩中皿

<上質な甘みの富山海老>

木枯らしが吹き、木の葉が舞い落ちるころ、富山湾で水揚げされる富山海老の甘みが増してきます。お造りがお勧めです。今が旬のアオリイカ、車鯛のお造りも併せてご賞味ください。刺身ダレは延楽オリジナルの煎り酒で。

季節の器は、「白高麗銀彩中皿」です。宮川香斎の作品です。白高麗は、明の福建省泉州徳化窯で焼かれた粗製の白磁です。朝鮮の白掛け茶碗と混同されて白高麗と呼ばれるようになりました。縁と中ほどに銀彩が施されているので、富山海老の赤が優しく引き立ちます。

網目色絵小花六寸皿

<のど黒・焼霜>

冬型の気圧配置になると気温が急激に下がります。富山湾の底引き網漁が最盛期を迎えます。魚は脂が乗り、最もおいしくいただける季節となりました。のど黒の脂は身と皮の間についているので、焼霜にします。皮を焼くことにより独特の薫香が出て美味しくなります。

季節の器は、「網目色絵小花六寸皿」です。網目文は線描きで網の目を描いた文様です。

網目の描き方は緩やかに波打つものを基本としますが、横幅の間隔の狭まったもの、結び目のあるもの、二重線のもの、網目に魚文や桜や菊の花文を散らしたものなど様々なバリエーションがあります。これらの文様は17世紀前半から伊万里焼に現れます。

金盞香(きんせんかさく)

<雲に包まれる黒部峡谷>

11月17日から七十二侯は、「金盞香(きんせんかさく)」で二十四節気「立冬」の末侯になります。金盞香が咲き始める頃という意味です。金盞香とは水仙のことで、別名「雪中花」と呼ばれています。

五弁の花びらの真ん中にある副花冠が、金色の盃を表す「金盞(きんせん)」に似ているところから、金盞香と命名されました。水仙の花が咲くと、上品な香りが漂い始め、あたりの空気を清浄にしてくれます。

宇奈月温泉では、冷たい時雨が降ったりやんだりを繰り返しながら、一雨ごとに冬へと近づいていきます。雨上がりに発生する雲が山を覆い、その切れ間から深紅に染まった木々が現れてきます。

天候が回復に向かうと、雲が山の斜面を這い上がり稜線へと続きます。雨上がりの黒部峡谷は、錦秋の深まりを一段と幻想的に見せます。北から冷気が入ってくると山の稜線は雪化粧をし、黒部三段染めとなります。

染付捻文向付

<永寿ならではの美しさ>

白海老はあまりにも小さいため、一般のお醤油だと海老の甘さが負けてしまいます。延楽では特製の出し汁を使います。白海老の甘さを最大限引き出し、地酒に合う旨味です。

季節の器は、「染付捻文向付」で、九谷の名工「矢口永寿」の作品です。呉須の点描で捻文を表しています。永寿の染付は、色合いが美しく優しさがあります。永寿は、明治37年(1904)に京都より永楽保全の門下である滝口加全などの陶工を招き、永寿窯を開業します。仁清、乾山、染付、祥瑞などの作品を多く残しています。

楽双鶴平向付

<内子は格別>

香箱蟹(こうばこがに)は、富山湾で獲れる雌の津合蟹(ずわいがに)です。茶色のつぶつぶの卵は外子で、味噌の部分のオレンジ色の内子は、濃厚な味で格別の旨みがあります。漁期は1月10日までの短期間です。

季節のうつわは「楽双鶴平向付」です。内子、外子の紅色が映える器で、お祝膳の席にも使われます。

渕色絵線輪花

<真鯛香煎揚>

黒部沖合では、1本釣りで底物の真鯛、のど黒、鬼鮋(オニカサゴ)などが釣れます。真鯛は、漁獲量の80%は定置網、残りは刺網や底引網で獲られます。真鯛の美味しい時期の到来です。会席の揚げ物は真鯛の香煎揚げです。

季節のうつわは「渕色絵線輪花」です。複数の色彩を使った線輪花です。

灰釉割山椒向付

<新鮮な白子>

富山湾に冷たい北風が吹くようになると、真鱈が美味しくなります。新鮮な白子はポン酢で食すと格別な旨味があります。雲のように見えるので雲子と呼んでいます。身は昆布で〆て真子をまぶします。鱈の子付として地元では食されています。

季節の器は、「灰釉割山椒向付」です。灰釉(かいゆう)は植物の灰を加えた釉です。植物の灰にはアルカリ金属が含まれ、これが高温になると素地の中の長石を溶かしてガラス化します。色は黄緑色や白濁色になります。

地始凍(ちはじめてこおる)

<深まりゆく黒部の秋>

11月12日から七十二侯は「地始凍(ちはじめてこおる)」で、二十四節気の「立冬」の次侯となります。陽気が弱まって日ごとに冷え込みが増し、大地が凍り始める頃という意味です。

冷たい時雨が降ったりやんだりを繰り返し、ひと雨毎に冬へと近づいていきます。黒部峡谷の紅葉はまだまだ見ごろで、色濃い黄金色と深紅の照り葉が美しく輝いています。

宇奈月温泉散策コースの一つである「やまびこ遊歩道」は、様々な木々の落ち葉が折り重ねっているので気持ちよく歩けます。柑橘系の香りを漂わせるクスノキ科の壇香梅や、大葉黒文字の落ち葉は黄金色に輝いています。春にはいち早く花を咲かせる樹木達です。