草木萌動(そうもくめばえいずる)

<ホタルイカの釜揚げ>

2月29日から七十二侯は「草木萌動(そうもくめばえいずる)」で、二十四節気の「雨水」の末侯となります。柔らかな春の陽射しを受け、潤った土や木々から萌葱色の新芽が芽吹く頃という意味です。

富山湾では3月1日からホタルイカ漁の解禁となります。ホタルイカは、昼は深い海底に潜み、深夜から明け方にかけて浅いところへと移動して産卵します。その習性をとらえて行われるのが、富山湾の春の風物詩「ホタルイカ漁」です。ホタルイカが放つ独特の青白い光は幻想的で、まさに富山湾の神秘といわれる所以です。ほのかな甘みのお造りは、絶品で地酒とよく合います。熱々のホタルイカの釜揚は、オレンジ色の内臓もたっぷりと味わえて、これがまた地酒によくあいます。

一方、黒部川では3月1日から渓流釣りの解禁となります。黒部川の河原は雪に覆われていますが、釣り人が山女魚や岩魚を狙って早春の渓流に挑みます。

白磁雪輪形四五皿

<雪の結晶をデザイン化>

雪が雨に変わり、雪や氷が溶けて水となる二十四節気の雨水。この雨水の期間に、晴れた寒い朝に山から吹きおろす冷たい風に乗って、風花が舞うのが見られます。純白の花ようです。雅膳の先付は、風花の器を使います。

季節のうつわは「白磁雪輪形四五皿」です。雪輪文は雪の結晶を文様化したもので、輪花状の円に六方の小さな切れ込みが入ったものが基本となります。この器は、向付の輪郭をシンプルな雪輪形にしたもので、皿などにも見られます。もっと複雑な形をした雪輪も見られます。

飴釉俵形向付

<はちめの煮付け>

鉢目は、富山湾の水深100m~150mの岩礁地帯に生息しています。成長するにつれ深所に移動します。くせのない白身で、身のしまりがよく、煮付けがおすすめです。

季節のうつわは「飴釉俵形向付」です。飴釉の美しい器です。

飴釉とは、鉄釉の一種で酸化焼成によって飴色に呈色したものをいいます。鉄釉は、含まれる鉄分の量で発色に違いが出てきます。鉄分の多い順に、焼き上がりが赤黒いものを鉄砂釉、赤褐色のものを柿釉、黒色のものを黒釉、黄色を帯びた黒褐色のものを飴釉として分類します。

染付祥瑞輪花向付

<針木輪花>

雅膳の一皿は、津合蟹の蟹味噌です。強い甘みの身抜きと濃厚な蟹味噌を味わってください。冬の蟹味噌は格別です。津合蟹漁は3月20日まで行われます。

季節のうつわは「染付祥瑞輪花向付」です。染付の色合いが見事な三浦竹泉の作品です。

輪花とは、器の口縁に規則的に入れた切込みが花弁を連想させる装飾のことで、とくに東アジアの陶磁器において多く見られます。日本では1630~1640年代、茶人の趣味を反映して不規則な輪花装飾が考案され、中国景徳鎮窯に注文されました。特に祥瑞、色絵祥瑞にその遺品が多く含まれています。

古九谷色絵花鳥図向付

<青緑山水>

二十四節気の「雨水」に入りましたが雪の日が続きます。寒鰤は良質な脂が載っています。ぶりしゃぶの前にお造りをいただきます。大根おろしと一緒に食べると一味違います。

季節のうつわは「古九谷絵花鳥向付」です。青緑の強い向付が合います。青緑山水はもともとは古代の中国で表された神仙たちが住む常世の世界を表しています。

九谷焼は、石川県南部で江戸時代以来焼き継がれている陶磁器の総称です。江戸前期の古九谷、江戸後期の再興九谷、明治以降の近代九谷と現代九谷とに分類されます。その地域の特色を加味して江沼九谷、能美九谷、金沢九谷の分類も用いられています。古九谷は色絵と青手の二つがあり、力強く自由奔放な色と構図の大胆さから、世界でもまれにみる芸術的な陶磁器として高く評価されています。

霞始靆(かすみはじめてたなびく)

<雪を纏った後立山連峰(白馬連山)>

2月24日から七十二侯は「霞始靆(かすみはじめてたなびく)」で、二十四節気「雨水」の次侯となります。靆(たなびく)とは、霞や雲が薄く層をなして横引きに漂うことです。雨水や雪融け水によって湿った大地に、日が差すことによって水蒸気が起こり、霞が棚引くようになります。春霞で野山がぼんやりとかすんで見える頃となります。

霞は気象用語で靄(もや)のことで、しばしば春の女神の衣に見立てられてきました。霞とは春に出る霧の事で、霧はそれぞれ情景により朝霧、夕霧、薄霧、八重霧などと美しく表現されます。朧月夜に詠われる夜の霧は、朧(おぼろ)として使い分けられます。

春霞は、偏西風に乗って大陸から飛来する黄砂によるもので、万葉集にも詠われています。これから多く見られる現象で、雪を纏った黒部の山々が、霧や靄で美しく豊かな景色となる日が多くなります。北陸新幹線の車両が親不知のトンネルを抜け富山県に入ると車窓から北アルプスの大パノラマの絶景がご覧いただけます。黒部川を育む名座の連なりです。

色絵椿絵向付

<春を告げる魚:メバルの煮付け>

二十四節気の「雨水」を迎えると、春告げ魚である眼張(メバル)がおいしくなります。富山県内では、目が大きくて鉢のようなので、鉢目(ハチメ)と呼んでいますが正式名称はウスメバルです。他にヤナギバチメ、アオヤギなどと呼んでいます。脂肪が少なく淡白なくせのない白身なので煮付けが美味しいです。

季節のうつわは「色絵椿絵向付」です。椿は、お茶花として初冬が18種、早春が29種あり趣があります。

染付波斯模様高台皿

<大根おろしと山葵・地元醸造醤油で>

二十四節気の「雨水」に入ると、雪から植物の芽吹きを助ける雨に変わるのですが、時たま冬型の気圧配置に逆戻りすることがあります。一時的に大雪をもたらすことは季節の変わり目のシグナルです。

富山湾では、大物の寒鰤が定置網に入ってきます。地元では寒鰤の造りは厚めに引きますが、脂が乘っている部位は少し薄めに引いて大根おろしを添えると、格別の味わいとなります。合わせる地酒は、千代鶴酒造の「恵田」がおお勧めです。

季節の器は「染付波斯模様高台皿」です。波斯はペルシアのことで、染付で波斯模様の器は、和食の器の取り合わせに緊張感を与えてくれます。高台の皿は、寒鰤の中でも一番おいしい部位を盛るのに相応しい器です。

仁清色絵桃花絵六寸皿

<上巳の節句が近づく>

雪が雨に変わる頃、二十四節気は「雨水」に入ります。宇奈月温泉は夜半の雪でまだ寒さが残りますが、富山湾の魚たちは春の便りを届けてくれます。延楽・雅膳、早春のお造りは、 赤烏賊、細魚、真鯛、鮪です。

季節のうつわは「仁清色絵桃花絵六寸皿」です。もうすぐ上巳の節句です。

志野隅入角皿

<氷見牛と若竹・石焼き>

氷見牛は、さしの入り具合と脂の質が良いので好まれます。高温に熱した石で焼きます。取り合わせは、筍が合います。

季節のうつわは「志野隅入角皿」です。志野焼は志野釉(長石釉)と呼ばれる長石を砕いて精製した白釉を厚めにかけ焼かれます。通常、釉肌には肌理(きめ)の細かい貫入や柚肌、また小さな孔が多くあり、釉のかかりの少ない釉際や口縁には、緋色の火色と呼ばれる赤みのある景色が生まれます。