蒙霧升降(ふかききりまとう)

<炸裂音凄まじい宇奈月温泉峡谷花火大会>

8月17日から七十二侯は「蒙霧升降(ふかききりまとう)」で、二十四節気「立秋」の末侯となります。蒙霧とは立ちこめる深い霧のことで、朝晩の冷え込みで霧が発生しやすくなる頃という意味です。俳句では霧は秋の季語で、これから山や川、湖などに霧が発生しやすくなります。

毎年、8月18日は宇奈月温泉花火大会で、光の大輪が峡谷の夜空を華やかに彩ります。宇奈月温泉は四方を山に囲まれているため、花火の炸裂音が峡谷中に響き渡ります。今年は、宇奈月温泉開湯は百周年で、それに相応しい花火を打ち上げます。打ち上げ箇所も3箇所に増やし、コロナからの復興を願って盛大に打ち上げます。

花火大会の歴史は古く、第一回目は1929(昭和4)年でした。黒部川本流での最初の発電所の柳河原発電所(黒一)が完成した2年後の事です。今から93年前です。その年の雪融けを待って、6月から猫又と鐘釣間の専用軌道の工事が始まります。日本電力が宇奈月の台地に旅館や料理屋の誘致を始めてから5年後の事です。

昭和の大不況は、温泉街をも巻き込み廃業に追い込まれる旅館が何軒もでました。昭和4年10月24日、ウォール街の株価が暴落し、暗黒の木曜日が始まります。そしてアメリカの経済悪化が発端となり世界恐慌が始まります。そんな暗い時代を元気づけるために、有志によって宇奈月温泉花火大会が行われたのです。

どんな時代でも変わらぬものがあります。それは宇奈月の地形が生み出す癒される自然です。山野では秋茜が飛び交い、山萩、薄、田村草など秋を彩る山野草が咲き始めます。山から吹き下ろす風も秋の気配が感じられるようになります。四季の移り変わりを温泉に浸かりながら感じられる宇奈月は、多くの文人墨客たちを魅了してきました。