天地始粛(てんちはじめてさむし)

<僧ケ岳登山道より黒部川扇状地を望む>

8月28日から七十二侯は「天地始粛(てんちはじめてさむし)」で、二十四節気「処暑」の次侯となります。粛には、鎮まるとか弱まるという意味あり、ようやく夏の気が鎮まり秋らしい涼しさが訪れる頃という意味です。日中は厳しい暑さが続きますが、少しずつ冷たい空気が漂うようになり秋雨前線の到来も間近となります。温泉街に吹く早朝の川風は、爽やかであり心身ともに心地良さを与えてくれます。

宇奈月の山々では、山野草が風に揺れて秋草の匂いを漂わします。宇奈月の名峰「僧ケ岳」は、立山連峰の北端に位置し日本海からの距離が最も近い山です。そのために標高が1855mにもかかわらず、日本海からの季節風による風衝地帯があり、針葉樹の高木から高山植物などの特有の植生がみられます。標高700~1600mまでに分布する雪椿の植生も興味深いものがあります。

山の開山は平安時代の初めの大同年間(806~810年)と伝えられています。名前は山頂近くに現れる雪形が、僧が馬を引く形に見えることに由来します。麓の人々は、雪形の消長を農作業の目安としていました。晴れた日には、中腹の登山道から黒部川扇状地が一望でき絶景です。黒部川のうねりは、かつての暴れ川の片鱗を見せています。中部山岳国立公園から外れていますが、秋の訪れを満喫できる名座の一つです。

染付芙蓉手

<千枚鮑>

雅膳の強肴は、酢の物で千枚鮑(土佐酢)です。酒蒸しの鮑を薄く引いたものです。鮑の旨味を生かすため酢は控えめにしてあります。

季節のうつわは「染付芙蓉手」です。芙蓉手とは、明の万暦年間に景徳鎮民窯で焼かれた染付磁器の様式です。見込みの構図取りは、中央に円窓を大きく設け、その周囲を細かく蓮弁文様を繋いで巡らせるもので、その構成が大輪の花房を連想させることから日本でつけられた呼称です。

紅花栄(べにばなさかう)

<黒部川扇状地を走る>

5月26日から七十二侯は「紅花栄(べにばなさかう)」で、二十四節気「小満」の次侯となります。

紅花が色付き、黄橙色から艶やかな紅色へと変わる頃という意味です。小満は、陽気盛んにして万物ようやく長じて満つということなので、紅花の濃厚な色合いは夏らしさを感じさせてくれます。紅花は原産が地中海沿岸と考えられ、シルクロードを経由して奈良時代に日本にもたらされ、口紅や布の染料や漢方薬などに利用されてきました。現在国内では山形県の一部でわずかな数しか作られていませんので、身近な花には程遠いようです。

田圃に水が張られる頃、黒部市ではカーター記念「黒部名水マラソン」が行われます。今年は5月22日に行われました。日本陸上競技連盟公認コースのフルマラソンで、黒部川扇状地、黒部川湧水群、黒部の海岸線を走ります。文字通り山、川、海を満喫できる自然豊かなマラソンコースとして人気があります。

1984年に、アメリカ合衆国第39代大統領ジミー・カーター氏がYKK創設50周年の招待で黒部市を訪れられました。その時、宮野運動公園で開催されたジョギング大会が始まりとなっています。昨年はコロナ禍により中止となりましたので、本年は39回目として開催されました。特にフルマラソンの参加者は、回数を重ねるごとにリピータの方が増え、質の高い内容となっています。

染付蝶絵小皿

<連続した蝶紋>

日一日と春めいてくると、富山湾の細魚や桜鯛が旨くなります。早春の旬魚たちです。延楽特製の煎り酒をつけて味わってください。合わせる地酒は清都酒造の「勝駒純米夫吟醸」です。すっきりとしたお酒が合います。

季節の器は「染付蝶絵小皿」で、永楽妙全の作品です。妙全ならではの優しくてしっかりとした書き込みです。早春のお造りに相応しいうつわです。

赤升麻(アカショウマ) ユキノシタ科

<甘い香りで昆虫を誘う>

赤升麻は、宇奈月の山路の法面や林縁に自生するユキノシタ科チダケサシ属の多年草です。茎は鳥足升麻より小形で30~80cm位で、基部には褐色の鱗片状の毛が多くつき、和名はそこに由来します。

葉は、3回出複葉で光沢が無く重鋸歯になっています。小葉は卵形で先端が尖っています。萌黄色の葉は、白い花を一層引き立ててくれます。花序の側枝は分岐しないので花序全体がまばらに見えます。花は、小柄を持ち5弁花を沢山つけます。鳥足升麻よりも花期が早くなります。

雪見露天風呂「華の湯」

<露天風呂「華の湯」の湯鏡>

露天風呂「華の湯」は、樹齢四百年の檜を使った総檜風呂です。湯舟には雪を纏った峡谷が、湯鏡となって映り込んでいます。水墨画のような幻想的な光景が、眼前に広がります。時折木々の枝に積もった新雪が、雪煙をたてながら舞い落ちます。

黒部峡谷の雪景色を眺めながら湯に浸かる。アルカリ性単純泉は肌に優しく、湯上りも温かく湯冷めがしない温泉です。まさに至福の一時です。

雪見露天風呂「琴音の湯」

<雪に覆われた峡谷>

延楽にある3箇所の雪見露天風呂の内の一つ「琴音の湯」の檜風呂です。 対岸に琴音の滝が見えるところから名付けられました。 中川一政画伯のお気に入りの滝でした。今年は35年ぶりの豪雪で、雪を纏った山々の景色は、幽玄な水墨画の世界です。

黒部の山々と黒部峡谷の雪景色を眺めながら湯に浸かる。時折、雪が川風に運ばれ下から舞い上がってきます。まさに至福の時です。

澤クヮルテット・結成30周年記念コンサート

<澤クヮルテット・結成30周年記念コンサート>

宇奈月国際会館セレネ大ホールでは、バイオリニストで東京芸術大学の澤和樹学長率いる弦楽四重奏団「澤カルテット」の結成30周年記念演奏会が9月26日行われた。メンバーは第2バイオリン・大関博明さん、ビオラ・市坪俊彦さん、チェロ・林俊昭さん。30年メンバーの交代はなし。息の合った演奏で、一際、澤学長のバイオリンの音色には魅了される。この演奏会は、昨年の七夕コンサート以来である。昨年は奥様の蓼沼恵美子さんのピアノも加わった。レンガ積みのセレネホールはクヮルテットにふさわしい空間を創出してくれる。まさに至福の時である。

草露白(くさつゆ しろし)

<萌黄色の最も美しい季節をとらえた院展出品作品>

9月8日から二十四節気は「白露」となる。朝晩の気温差が大きくなると露が降りるようになる。暦便覧には「陰気ようやく重なり露凝って白し」と。夏の気配を残しつつも朝夕は涼しくなり、草花に朝露がつくようになるという意味。

七十二侯は「草露白(くさのつゆ しろし)」で、「白露」の初侯。草に降りた露が白く光って見える頃という意味。早朝に僧ヶ岳の登山道を行くと、草露に足下が濡れる。白露に濡れた紅紫色の秋桐や釣舟草が心に残る。

昨年、黒部峡谷・セレネ美術館では、令和記念特別展として田渕俊夫画伯の至極の日本画展を開催した。出品作品の中に黒部川扇状地をとらえた大作「大地」があった。1998年の院展出品作である。残雪が未だ多い後立山連峰。新緑の美しい山の端。田圃に水が張られた田植え時期。5月末の黒部平野の風景である。黒部の生命の息吹が最も感じられる季節に、ヘリコプターを使って扇状地を取材した作品である。

今年のセレネ美術館では、黒部の水をテーマに創作された田渕画伯の作品が常設展示されている。芸術の秋にふさわしい作品群である。

シアター・オリンピックス

<セレネで上演された、青い鳥>

8月23日から行われている、国際的な舞台芸術の祭典「第9回シアター・オリンピックス」は、ロシアとの共同開催で9月23日まで行われる。今年から宇奈月国際会館「セレネ」は、鈴木忠志氏の粋な計らいによって会場の一つに加えられた。