延齢草(エンレイソウ) ユリ科

<湿ったところを好む延齢草>

延齢草(エンレイソウ)は、宇奈月の深山や、山地の樹陰に生えるユリ科の多年草です。

太く短い根茎から15cmから20cmの茎が1本伸び、その頂部に3個の葉が輪生します。葉は、広卵円形で葉柄を持たず茎から3枚の葉を直接つけています。葉が双葉葵に似て立っているので立葵とも呼ばれています。花は、輪生した葉の中心から出る花柄の上につき、花弁はなく濃い紫色に近い茶褐色の3個の萼片からなり横向きに咲きます。

根茎にはサポニンが含まれる有毒植物ですが、根茎を干したものを延齢草根と言い、胃腸薬などの薬草として使われていました。このことが延齢草の名前の由来となっています。

黄花碇草(キバナイカリソウ) メギ科

<若葉が美しい黄花碇草>

黄花碇草(キバナイカリソウ)は、宇奈月の山の則面に自生するメギ科の多年草です。

茎の高さは40cmから60cmで、まばらに分岐します。根出葉は長柄があって複葉で、3枚つき2段階で分かれるので2回3出複葉と言います。4月に総状花序を出して淡黄色花を数個下向きに開きます。

碇と錨の違いは、碇はかつて日本船に使われていた4本爪のイカリのことで、錨は2本爪のイカリのこです。花の形が碇に似ていることが名前の由来となり、碇草の漢字になっています。碇草は滋養強壮の漢方薬として利用されてきました。花が散ると、葉が急激に大きく広がります。

片栗(カタクリ) ユリ科

<落葉樹林内で開く片栗の花>

片栗(カタクリ)は、宇奈月の落葉樹林内で群生するユリ科の多年草です。雪が解けた落葉樹林内で冷たい風に揺れながらひっそりと咲いています。

「万葉集」では堅香子(カタカゴ)の花として詠われ、かつては鱗茎から片栗粉を取り出したのが名前の由来です。『物部(もののふ)の 八十少女(やそおとめ)らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子(かたかご)の花』(万葉集第十九巻4143)と大伴家持が万葉集で詠んでいます。

大伴家持は、「令和」の出典「梅花の歌」の詠み人、大伴旅人の長子で、国司として5年間越中に赴任しています。越中の国衙が置かれていた場所は、現在の高岡市伏木古国府、浄土真宗本願寺派の古刹国宝「雲龍山勝興寺」のあたりです。

その古刹の北側に伏木神社があり、神社の西側に「万葉寺井の址」が残されています。待ちわびた北国の春に思いを寄せる家持の目には、清水を汲みに井戸に集まる乙女たちの笑い声と、その乙女たちを象徴するように咲いている堅香子(かたくり)が重なって見えたのかもしれません。

落葉樹の葉が広がり、樹林内の陽光が弱まると片栗の姿が瞬く間に消えてしまいます。スプリング・エフェメラルです。

葭始生(あしはじめてしょうず)

<新緑に映える黒薙・後曳鉄橋>

4月20日から二十四節気は「穀雨」となります。春は、二十四節気の「立春」に始まり「穀雨」で終わりを告げます。
「穀雨」は、春雨が百穀を潤す事から名付けられ、種まきや田植えの準備の目安となります。変わりやすい春の天気もこの頃から安定し、日差しも徐々に強まります。

七十二侯は「葭始生(あしはじめてしょうず)」で「穀雨」の初侯となります。水辺の葭が、芽吹き始める頃という意味です。黒部峡谷は、萌黄色に染まり黒部奥山ではブナの峰走りが現れる頃となります。

冬期間運休していた黒部峡谷鉄道は、例年より積雪が多いので一部区間運転となります。
4月20日から柳河原発電所がある柳橋駅まで、5月3日から宇奈月の源泉のある黒薙の次の笹平駅まで、5月10日から猫又までの運転となります。
欅平までの全線運行については、能登半島地震による落石で鐘釣橋が損傷し、その補強と落石対策の工事が終わり次第運行されまが、来年以降の運行となります。

深いV字峡谷を刻んで流れる「穀雨」の黒部川は、山々の雪解けが進み、水量を増しながら激流となって富山湾へと流れていきます。
黒部の峡谷に吹く風はまだ冷たく、時折山桜の花びらを運んできます。森羅万象の緑は、訪れる人々の心を癒してくれます。

古伊万里金襴手蘭人文蓋付碗

<蘭人文は皿などにもみられる>

雅膳の一皿は、春の香りの若竹煮です。
富山県内産の柔らかな若竹と若芽の煮物です。
宇奈月の山では山菜が芽吹き、タラの芽、蕗、こごみ等が春の香りを届けます。

季節のうつわは「古伊万里金襴手蘭人文蓋付碗」です。
金襴手とは色絵陶磁器に金彩を焼き付ける装飾法で、中国北宋時代の11世紀に定窯で始められました。
その後、明時代の嘉靖年間になって、景徳鎮民窯で絢爛たる金襴手を完成させました。
その作風により、色絵金襴手、赤地金襴手、萌黄金襴手、白地金襴手、瑠璃地金襴手、三彩地金襴手に分類されます。

わが国では、元禄年間(1688-1704)に伊万里焼が景徳鎮窯の金襴手を手本にして、金泥を色絵素地に焼き付ける意匠を開発しました。

九谷赤絵金彩七賢人平皿

<繊細で緻密な書き込みが特徴の九谷赤絵金彩>

富山湾から水揚げされる春の旬魚は、種類が豊富です。
今が旬の白海老、富山海老、ホタルイカ、アオリイカ、ヒラメ、ヒラマサ。そのほか細魚、メバル、ブダイ、白海老、のど黒等々。
新鮮なお造りは、延楽特別醸造の醤油と煎り酒でお召し上がりください。

季節のうつわは「九谷赤絵金彩七賢人平皿」です。
九谷赤絵は、弁柄と呼ばれる鉄分を含む赤い顔料を使い、金襴を施して仕上げます。
繊細で緻密な書き込みが特徴で、明治初期に欧米への輸出用として制作されました。
九谷焼の貿易に乗り出した円中組の円中孫平や、パリ在住の林忠正が活躍した時代です。

金彩獅子丸紋向付

<独特な色彩センス>

雅膳の一皿は、強肴で白海老と唐墨です。
繊細な白海老は、特製の出汁で召し上がっていただきます。
合わせる地酒は清都酒造の「勝駒純米吟醸」です。

季節のうつわは「金彩獅子丸紋向付」で、永楽妙全の作品です。
妙全ならではの優しい色彩は、繊細で純白の白海老を引き立ててくれます。

立坪菫(タチツボスミレ) スミレ科

<立坪菫の特徴は葉先が尖っている>

立坪菫は(タチツボスミレ)は、宇奈月の山野や低地等に普通に見られるスミレ科の多年草です。

茎は地下茎は短く、根出葉は細い葉柄があって葉身は2cmぐらいです。卵円形で葉先がとがっているのでオオタチツボスミレと区別ができます。花径は茎の下部と上部葉腋から花柄を出し淡紫色の小花を横向きに開きます。

立坪菫は、分布域が全国に広がり生育環境もそれぞれ違うので、野菊のように地域による個体変異が多いのが特徴です。野山で菫を見つけると、春が来た喜びが湧いてきます。

丁字桜(チョウジザクラ) バラ科

<下向きに開花する>

丁字桜は、宇奈月の山地や谷筋に生えるバラ科の落葉小高木で、変種も多くあり日当たりの良いところを好みます。

葉は、倒卵形で先が細長くなり、縁には深い重鋸歯があり表裏両面に毛があります。花は葉とともに出て、一芽から1個または2個の花を下げます。平開した白い花弁と細長い顎筒との形が丁字に見えるのが名前の由来です。




虹始見(にじはじめてあらわる)

<雪の大谷>

4月15日から七十二侯は「虹始見(にじはじめてあらわる)」で、二十四節気「清明」の末侯となります。
萌える山野を背景に驟雨一過、虹が出始める頃という意味です。
春の虹は、夏の虹に比べると幻想的で、淡くたちまち消えてなくなります。

立山黒部アルペンルートは、本日4月15日から全線開通となります。
一番のハイライトは雪の大谷で、雪壁は高い所で20mに達します。
標高2450mの立山室堂平は、世界でも有数の豪雪地帯です。
とりわけ室堂付近にある大谷は、吹き溜まりになるので特に積雪が多くなります。

立山黒部アルペンルートは、富山県立山町の立山駅と長野県大町市の扇沢駅とを結ぶ交通路で、総延長37.2kmの国際的にも大規模な山岳観光ルートです。
ほんどが中部山岳国立公園内で、 雪に覆われた北アルプスの名座は神々しく輝きます。

これと並行する新たな山岳観光ルート「黒部宇奈月キャニオンルート」は、宇奈月温泉から黒部ダムにはいるるーとです。残念ながら能登半島地震の影響を受け、一般開放は来年以降となります。
富山の山岳観光に新たな魅力と、コースの選択肢が加わります。