2月19日から二十四節気は「雨水」に入ります。空から降る冷たい雪が雨に変わり、野山の雪がゆっくりと融け始めます。この頃の雨は「木の芽起こし」といって、植物の芽吹きを助ける大切な雨となります。この時期に吹く強い南風が春一番です。
七十二侯は、「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」で二十四節気「雨水」の初侯となります。凍てついた大地が潤いをとり戻す頃で、昔から農耕の準備を始める目安とされてきました。
この時期には時折、冬型の気圧配置が強まり季節外れの大雪になる事もあります。たびたび二十四節気「雨水」の初候のおきる気象現象です。春一番も伴って吹雪となり、猛スピードで雪が横に飛ばされます。この風も長続きはせずに、天気は徐々に回復してきます。これからは日一日と日足も長くなり、三寒四温を繰り返しながら季節は春に向かいます。
2024年2月
備前手付小向付
冬型の気圧配置が強まると、二十四節気「雨水」が近づいても宇奈月は雪となります。滞在のお客様が多いこの時期、ふぐは欠かせません。津和井蟹、寒鰤、のど黒の料理にふぐが加わります。先付は、白子塩焼きです。やはり熱々のふぐの白子は格別です。
季節のうつわは「備前手付小向付」です。備前焼は岡山県伊部を中心に、平安末期から連綿と焼き上げられている焼き締めの陶器で、伊部焼とも呼ばれています。中世六古窯の一つで、江戸初期以前の物は古備前と呼ばれています。釉薬を一切使わず酸化焔焼成によって固く焼しめられ、窯変によって生み出される模様が面白い。
色絵祥瑞梅樹文皿
<見込は市松模様と松竹梅>
のど黒会席の一皿は、のど黒の塩焼きです。大形ののど黒は、数が少なく希少価値があります。うま味のある脂がのり、しゃぶしゃぶや塩焼きに最適です。あしらいに珍味の干口子を添えます。口直しに黒豆を。
季節のうつわは「色絵祥瑞梅樹文皿」で、三代須田菁華の作品です。祥瑞は、明代末期の嵩禎年間(1628~44)頃に、日本の茶人の注文によって景徳鎮で焼造された染付磁器です。文様構成に赤、緑、黄で色絵をつけたものが色絵祥瑞です。梅樹文皿の見込みは、下半分を梅樹文、上半分を市松に区画し、その中を幾何学模様で埋め、蘭と梅の花を白抜きで表しています。皿の縁は幾何学模様と松竹梅を描いています。本歌は、出光美術館等が所蔵する「色絵祥瑞輪花絵替向付」です。
染付梅中皿
雅膳の滞在料理の一皿です。宇奈月温泉は、山間ながら富山湾まで車で30分の距離なので、新鮮な魚介類が料理に使われます。滞在料理はお客様の希望で鰻の棒寿司です。
季節のうつわは「染付梅中皿」で、永楽妙全の作品です。たっぷりと呉須を使って見込みに梅が描かれています。落ち着いた色合の染付で、妙全らしさが出た美しく優しい仕上がりです。
仁清写色絵七宝紋蓋向
立春の末候ともなれば日足も少しづつ長くなります。確実に春の兆しが感じられるようになりました。北陸ではこれから鰆が旬を迎えます。料理法も多彩でお造り、西京漬け、塩焼き、棒寿司など脂がのって美味しくいただけます。漁獲量をみても北陸が全国でもトップクラスで、特に福井県、石川県の漁獲量が多くなっています。
季節のうつわは「仁清写色絵七宝紋蓋向」です。七宝紋とは一つの円に対して四方から円を組み合わせ、それぞれ四分の一の円が重なり合わないようにした輪違い文です。七宝は仏教の七つの宝のことで金、銀、瑠璃、珊瑚、瑪瑙、真珠をさします。磁器では、江戸時代以降に使われるようになりました。
魚上氷(うおこおりをいずる)
2月14日から七十二侯は「魚上氷(うおこおりをいずる)」で、二十四節気「立春」の末侯になります。春の兆しを感じて魚が動き始め、割れた氷の間から飛び出す頃という意味です。
宇奈月温泉では少し冷え込むと、夜半に雪が舞い稜線は薄っすらと雪化粧します。黒部川は渓流となって流れています。宿の対岸に小さな滝があり、長い年月をかけてほど良い大きさの滝釜が作られています。
宿の創業者と親しかった洋画家の中川一政のお気に入りの滝で、「琴音の滝」と名付けました。滝から黒部川に流れ落ちる清流の岩陰に、山女魚の稚魚が春めく時を待っています。
群れている稚魚の中に降海型の山女魚(ヤマメ)がいます。1年川で過ごした後、海へ落ちてカムチャッカ半島近あたりまで行き、3年後に大きな桜鱒となって戻ってきます。母なる黒部川で毎年見られる晩秋の風物詩です。
赤絵玉堂佳器向付
寒さが厳しくなると根菜類の甘みが増してきます。冬の根菜類は出汁を効かせて含め煮にします。雪景色の中では赤絵の器が似合います。
季節のうつわは「赤絵玉堂佳器向付」です。玉堂佳器とは、明時代の啓徳鎮の作品などにみられる銘です。立派な建物に佳い器を意味する吉祥句で、古伊万里などに見られます。
織部入隅角蓋物
富山湾で柳鉢目が水揚げされるようになりました。2月から4月にかけ漁が最盛期を迎えます。くせのない白身で、焼き物、煮物、揚げ物などの美味しい肴になります。
地酒は「千代鶴・純米吟醸」のぬる燗がおすすめです。
季節のうつわは「織部入隅角蓋物」です。織部焼は、慶長年間から寛永年間に美濃で焼かれた、斬新奇抜な加飾陶器の総称で、その技法によって分類されます。
緑釉を総掛けしたものは「総織部」、緑釉と鉄絵の組み合わせたものは「絵織部」、赤土上に鉄絵、白土上に緑釉を施したものは「鳴海織部」、赤土上に白泥鉄絵を組み合わせたものは「赤織部」、志野風の絵付けのものは「志野織部」と分類されます。これに形が取り入れられますので、多種の織部の器が生まれます。
鉄釉着彩福字六寸皿
雪景色が美しいこの時期は、連泊されるお客様が多くなります。滞在されるお客様の料理の内容は勿論の事、器もすべて変えます。例えば、揚げ物は「ふくの唐揚げ」であったりその日に水揚げされた魚の中から選びます。
季節のうつわは「鉄釉着彩福字六寸皿」で、魯山人写しです。福福で楽しくなります。
仁清色絵梅絵六寸皿
富山県内では富山市の内山邸の梅が最も早く開花します。梅園には紅白の梅が60本植えられています。例年、立春の日に開花します。早咲きの「八重寒紅」です。料理の器でも梅を愛でたいものです。
季節のうつわは「仁清色絵梅絵六寸皿」です。
紅梅と白梅がバランスよく配してあります。