高麗青磁菊形向付

<紅津和井蟹と水菜のおひたし>

富山湾に秋の訪れを告げる紅津和井蟹漁が9月1日に解禁となりました。地元ではアカガニと呼ばれ翌年6月30日まで漁が続きます。生息地は、ズワイガニより深い水深500mから2400mまでの領域です。富山湾では水深1000mの海底が魚場となり、円錐台形の蟹籠を沈めて漁をします。

雅膳の一皿は、紅津和井蟹と菊菜、水菜のおひたしです。紅津合蟹の他に富山湾で獲れる毛蟹等も使う場合があります。地元の生地港、魚津港の船が漁に出るのが9月の中旬位になりそうです。

季節のうつわは「高麗青磁菊形向付」で菊形の器です。高麗青磁は、朝鮮半島の高麗時代(918年~1391年)に製作された青磁釉を施した陶磁器です。高麗独特の象嵌青磁や辰砂文様等の青磁も作られるようになりましたが、李朝時代に入ると粉青沙器が主流となります。20世紀になり、失われていた高麗時代の製法が復活し、高麗青磁が蘇ります。

男郎花(オトコエシ) オミナエシ科

<秋の風情を醸し出す花>

男郎花(オトコエシ)は、宇奈月の山野に自生するオミナエシ科の多年草です。早いもので7月初旬から咲きはじめ、10月中旬頃まで見ることができます。

株元から匍匐枝(ホフクシ)を出して増えます。茎は太く直立し、葉は対生し羽状に深裂して、頂部の葉が最も大きくなります。茎頂近くの節から枝を対生に分岐します。上部が平たい散房花序になり、白い5裂の小さな花冠を多くつけます。その形から白粟花とも呼ばれています。

宗全籠に糸ススキ、金水引、河原撫子などを取り合わせると、秋の風情が楽しめます。

禾乃登(こくのものすなわちみのる)

<芸術家を魅了した宇奈月温泉・露天風呂付き客室>

9月2日から七十二侯は「禾乃登(こくのもの すなわちみのる)」で、二十四節気の「処暑」の末侯となります。禾の文字は、イネ科の植物の穂の形からできており、豊かな実りを象徴しています。立春から数えて210日にあたる9月1日は、野分と呼ばれる強風が吹く頃で、農家の厄日とされました。台風到来の時節です。また関東大震災が起きた日でもあり、現在は防災の日となっています。

田圃では稲穂が膨らんで黄金色になる収穫の頃です。この豊かな実りを強風から守るため、9月1日~3日に風神鎮魂を願う踊り「おわら風の盆」として、富山市八尾の地で執り行われ受け継がれてきました。八尾は、井田川と別荘川が作り出した河岸段丘に拓かれた坂の町です。三味と胡弓が奏でる哀愁漂うおわらの旋律は、訪れる人々を魅了します。

新作おわらの代表作は、小杉放庵が詠んだ「八尾四季」で、 八尾の春夏秋冬を詠んだ4首で次のように構成されています。

<八尾四季>
ゆらぐつり橋手に手をとりて
 渡る井田川 オワラ 春の風
富山あたりかあの灯火は
 飛んでゆきたや オワラ 灯とり虫
八尾坂道わかれてくれば
 露か時雨か オワラ はらはらと
若しや来るかと窓押しあけて
 見れば立山 オワラ 雪ばかり

小杉放庵は、1881(明治44)年に日光市で生まれ、父は国学者で神官あり日光町長も務めていました。放菴は昭和8年12月に初の歌集「放菴歌集」を刊行した際、初めて放菴の号を用いました。それまでは小杉未醒で作品を発表しています。大正14年に東京大学安田講堂の壁画を手掛けたことでも有名です。

八尾四季は、昭和3年1月28日に八尾の開業医、川崎順二に招かれ、新しい品のある歌詞を依頼されます。そして翌年詠んだのが八尾四季です。

放庵は、太平洋戦争が始まると新潟県赤倉に疎開して、戦後そのまま居を構えました。八尾の行き帰りに延楽に逗留して、黒部の作品を創作しました。時には親友で洋画家の中川一政と一緒の時もありました。

おわらに訪れる芸術家たちを魅了したのは、肌に優しい宇奈月の温泉でした。今でも巨匠の足跡は館内に多く残されています。 当時の織部釉のタイルの浴槽を再現したのが、705号室の緑釉の浴槽です。湯舟からは、岩を食む激流とお二人ゆかりの琴音の滝が、眼下に見下ろせます。当時から変わらぬ宇奈月の魅力です。

芒(ススキ) イネ科

<秋の深まりを感じさせる芒>

芒・薄 (ススキ)は、宇奈月の至る所で、普通に叢生するイネ科の大型多年草です。穂を動物の尾に見立てて尾花ともいいます。

宇奈月温泉の大原台(宇奈月温泉スキー場)は、ススキの草原でかつての萱場です。 芒は、古くから屋根材として使用され、茅葺屋根が点在する日本の原風景を生み出してきました。さらには家畜の飼料にもなる貴重な植物でした。それ故、群生している原野は萱場として大切に守られてきました。 銀色に輝く芒の穂が秋風に吹かれて波打つ様は、自然を愛しむ人の心を動かします。

芒は、秋の七草のひとつで十五夜の月見には、萩とともに欠かせないお花です。 収穫物と一緒にお供えするのは、収穫物を悪霊から守り豊作を祈願する意味があります。 越中おわら「風の盆」の男踊りの中に、芒がなびく所作があります。 胡弓が奏でる哀愁をおびた旋律が、秋風に乗って坂の町に物悲しく伝わります。9月1日~3日まで富山市越中八尾で静かに繰り広げられる祈りの踊りです。今年も昨年と同様、コロナ禍により中止となりました。大変残念です。