温風至(あつかぜいたる)

<延楽の松の剪定>

7月7日から二十四節気は「小暑」となり七夕の日でもあります。小暑は、本格的な暑さの前段階で、徐々に夏を肌で感じるようになります。例年この時期は、長く続いた梅雨が終わりを告げ夏本番となる頃ですが、今年の梅雨明けは18日頃と予測されています。小暑から立秋の前日までが「暑中」となります。暑中見舞いはこの間に出し、立秋に入ると残暑見舞いとなります。

七十二侯は「温風至(あつかぜいたる)」で、二十四節気「小暑」の初侯となります。温風とは南風のことで、温風が吹いて蒸し暑い日が増えてくる頃という意味です。沖縄から順に梅雨明けが始まるのもこの時期です。 今年は、日本列島に梅雨前線の停滞が続き、線状降水帯が発生するところでは、大水害をもたらしています。加えて日照時間が短い日が連日続きます。

この頃は、庭木の剪定の時期でもあります。雨の中、植木職人たちが松の新芽を指で摘んで取り除きます。葉が茂りすぎると樹形が見苦しくなります。常緑広葉樹は新しい枝が伸びてくるので剪定をして風通しをよくします。雨に濡れて松の緑が一段と美しく映えます。

蝦夷紫陽花(エゾアジサイ) ユキノシタ科

<雨に濡れて美し輝く>

蝦夷紫陽花(エゾアジサイ)は、宇奈月の山中に生えるユキノシタ科の落葉低木です。

 北海道から北陸にかけての日本海側に多く見られます。原種の山紫陽花が、豪雪に埋もれ越冬する間に変化したのではと考えられています。

 葉には、葉柄があり対生し、大きな楕円形で縁には鋸歯があります。先梢に多数の青紫色の両性花を開かせ、 周りには額片が大型化した装飾化をつけます。 場所によっては、紅色の仲間も見られます。

和名は、 北海道で多く分布することに由来します。

陶芸家・釋永由紀夫

<お茶室での作品展示>

釋永由紀夫さんは、越中瀬戸焼の陶芸家で、備前の金重素山に師事して茶陶を学び、林屋晴三の教示を受けます。朝鮮半島の窯をよく訪ねられ、陶芸の研究と陶芸家の交流も図っておられます。

窯は越中瀬戸・庄楽窯で、富山県中新川郡立山町上末の静かな高台の田園地帯にあります。 上末(うわずえ)の地は、良質な白土が採れるので、その歴史は古く奈良、平安時代に須恵器が焼かれた古窯が築かれた所です。釈永さんの説明によれば地名の上末は、元は上須恵であったようです。

延楽には、釋永さんの作品展示コーナーが設けられております。米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が好んだ陶芸家としても知られているところです。

仁清写し百合形向付

<翡翠茄子>

宇奈月温泉の山道を歩くと、芳醇な香りが漂ってきます。笹百合の開花です。6~7月ごろ淡いピンク色の花を咲かせます。野々村仁清はこれを形どって器を作ります。本歌は野村美術館と根津美術館に収蔵されています。

雅膳の一皿は、「仁清写し百合形向付」です。初夏の風を器で感じながらお料理を味わってください。

靭草(ウツボグサ) シソ科

<直立した茎の先に紫色の肉穂花序をつける>

靭草(ウツボグサ)は、宇奈月の日当たりのよい山野の草地に生えるシソ科の多年草です。茎は20cmから30cmで、基部から葉を付けた短い匍匐茎を地表に伸ばします。匍匐茎とは、地上に伏して細長くのび、その先に芽を付ける茎のことで節から根や芽を出して繁殖します。

葉は、長楕円状披針形で対生し小さな柄があり、茎はシソ科特有の四角形です。花は、直立した茎の先に肉穂花序を出し円柱状の花穂につきます。花穂は、扁心形の苞に包まれ萼は、二唇形で上唇は一部切り取られたような切形で短い3歯があり、下唇は鋭く2裂しています。花冠は紫色で筒状二唇形で、上唇は兜状、下唇が3裂して開出しています。

和名は、花序の形を矢を入れる靫(ウツボ)に見立てたこに由来します。 夏に枯れても残るので夏枯草(カコウソウ)とも呼ばれ、生薬となります。宇奈月の高山帯では、小型の立山靫草が見られます。

着彩丸紋繋山水向付

<丸紋繋ぎの図案>

7月1日から始まる祇園祭の頃に鱧は旬を迎え、脂が乗って美味しくなります。鱧は梅雨の水を飲んで育つと言われていますが、今年はすでに梅雨が明けました。雅膳の焜炉は、鱧鍋です。

季節のうつわは「着彩丸紋繋山水向付」です。呉須と赤絵の山水丸紋繋ぎです。

燕万年青(ツバメオモト) ユリ科

<純白で清楚な花>

燕万年青(ツバメオモト)は、宇奈月の亜高山帯の落葉樹林内に生えるユリ科の多年草です。

葉は、倒卵状長楕円形で厚みがあり根生し、万年青によく似ているので和名の由来となっています。花茎は1本立ち上がって総状に白い花をつけます。花被片は6個で夏の終わりに濃紺の実になります。

純白で清楚な容姿は、山野草の中では最も貴賓があります。

山吹升麻(ヤマブキショウマ) バラ科

<雨上がりの白い清楚な花は、山吹升麻>

山吹升麻(ヤマブキショウマ)は宇奈月の山地林縁に生えるバラ科の多年草です。

雌雄異株で根茎は木質化し、葉は大きく2回3出状複葉に分かれ、卵型の小葉はさらに羽状に分かれています。和名は、 山吹の葉とよく似ているところに由来します。

花は、大きい円錐状総花序を作って開き、5個の花弁を付けます。 宇奈月では、赤升麻、山吹升麻、鳥足升麻の順に開花します。 

青瓷花刻小鉢

<焼鮎の煮凍り>

黒部川では鮎釣のシーズンを迎えました。雅膳の滞在料理の小附は、焼鮎の煮凍りです。焼鮎の香ばしい身を、鮎の出汁を固める涼やかな一品です。

季節の器は、「青瓷花刻小鉢」です。高麗青磁の特徴である花の象嵌が施してあります。

赤目柏(アカメガシワ) トウダイグサ科

<アカメガシワは、柏の種類ではない>

赤目柏(アカメガシワ)は、宇奈月の山野に普通にあるトウダイグサ科の落葉高木です。

春先の新芽と幼葉は、紅赤色の毛に覆われて周り新緑のなかで一際美しく映えます。成葉は紅褐色の長柄が特徴で、大きな卵円形で浅く3裂することがあり、表面は深緑色、裏面は淡緑色でよく光合成が行われています。

雌雄異株で梅雨時期に枝先に円錐花序を出して、花弁のない淡黄色の小花を穂状にたくさんつけます。果実は秋に熟し、朔果で紫黒色の種子があります。種子は高温にさらされると発芽しやすくなる特徴があるので、樹林の伐採した後や森林火災の後に一気に繁殖する先駆植物です。

名前に柏がついていますが、柏ではありません。和名は、芽が赤くカシワのように食べ物を葉に包んだり、盛り付けたことに由来します。