祥瑞一閑人向付

<祥瑞の鉢の写し>

3月に入ると細魚が獲れ始めます。季節のうつわは「祥瑞一閑人向付」です。
一閑人とは、蓋置、火入などで、小さな人形が一つ、内側をのぞくような姿でつけられている意匠のものをいいます。人形を閑人に見立てた説もありますが、井戸を看る意味の「井看人」とも書きます。

明時代(17世紀)の景徳鎮で焼かれた祥瑞の鉢に、見込み口返に一閑人が付いている向付があります。これはそれの写しです。

鴬宿梅蒔絵お椀

<鶯の宿る梅>

鶯宿梅とは、鶯の宿る梅の意で、紀貫之の娘、紀内侍の家にあった梅の名前です。「大鏡」によれば、村上天皇のとき清涼殿の前の梅が枯れたため西京のある家から掘り取らせてきましたが、木の枝に「勅なればいともかしこし鶯の宿はと問はばいかが答えん」という歌が結び付けてありました。天皇はその家の主が紀内侍であったことを知り、深く感じ心残りなことをしたと思ったという故事によります。

二十四節気「雨水」の末候に入ると、春を告げる魚、はちめがおいしくなります。雅膳の吸い物ははちめの葛打と干口子です。季節のうつわは「鶯宿梅蒔絵お椀」です。

「大鏡」の鶯宿梅の子孫は、現在京都市上京区の林光院に植え替えられています。林光院は臨済宗相国寺派大本山・相国寺の塔頭で、もとは二条西ノ京にあり、そこは紀貫之邸があった所です。

白磁雪輪形四五皿

<雪の結晶をデザイン化>

雪が雨に変わり、雪や氷が溶けて水となる二十四節気の雨水。この雨水の期間に、晴れた寒い朝に山から吹きおろす冷たい風に乗って、風花が舞うのが見られます。純白の花ようです。雅膳の先付は、風花の器を使います。

季節のうつわは「白磁雪輪形四五皿」です。雪輪文は雪の結晶を文様化したもので、輪花状の円に六方の小さな切れ込みが入ったものが基本となります。この器は、向付の輪郭をシンプルな雪輪形にしたもので、皿などにも見られます。もっと複雑な形をした雪輪も見られます。

飴釉俵形向付

<はちめの煮付け>

鉢目は、富山湾の水深100m~150mの岩礁地帯に生息しています。成長するにつれ深所に移動します。くせのない白身で、身のしまりがよく、煮付けがおすすめです。

季節のうつわは「飴釉俵形向付」です。飴釉の美しい器です。

飴釉とは、鉄釉の一種で酸化焼成によって飴色に呈色したものをいいます。鉄釉は、含まれる鉄分の量で発色に違いが出てきます。鉄分の多い順に、焼き上がりが赤黒いものを鉄砂釉、赤褐色のものを柿釉、黒色のものを黒釉、黄色を帯びた黒褐色のものを飴釉として分類します。

染付祥瑞輪花向付

<針木輪花>

雅膳の一皿は、津合蟹の蟹味噌です。強い甘みの身抜きと濃厚な蟹味噌を味わってください。冬の蟹味噌は格別です。津合蟹漁は3月20日まで行われます。

季節のうつわは「染付祥瑞輪花向付」です。染付の色合いが見事な三浦竹泉の作品です。

輪花とは、器の口縁に規則的に入れた切込みが花弁を連想させる装飾のことで、とくに東アジアの陶磁器において多く見られます。日本では1630~1640年代、茶人の趣味を反映して不規則な輪花装飾が考案され、中国景徳鎮窯に注文されました。特に祥瑞、色絵祥瑞にその遺品が多く含まれています。

古九谷色絵花鳥図向付

<青緑山水>

二十四節気の「雨水」に入りましたが雪の日が続きます。寒鰤は良質な脂が載っています。ぶりしゃぶの前にお造りをいただきます。大根おろしと一緒に食べると一味違います。

季節のうつわは「古九谷絵花鳥向付」です。青緑の強い向付が合います。青緑山水はもともとは古代の中国で表された神仙たちが住む常世の世界を表しています。

九谷焼は、石川県南部で江戸時代以来焼き継がれている陶磁器の総称です。江戸前期の古九谷、江戸後期の再興九谷、明治以降の近代九谷と現代九谷とに分類されます。その地域の特色を加味して江沼九谷、能美九谷、金沢九谷の分類も用いられています。古九谷は色絵と青手の二つがあり、力強く自由奔放な色と構図の大胆さから、世界でもまれにみる芸術的な陶磁器として高く評価されています。

色絵椿絵向付

<春を告げる魚:メバルの煮付け>

二十四節気の「雨水」を迎えると、春告げ魚である眼張(メバル)がおいしくなります。富山県内では、目が大きくて鉢のようなので、鉢目(ハチメ)と呼んでいますが正式名称はウスメバルです。他にヤナギバチメ、アオヤギなどと呼んでいます。脂肪が少なく淡白なくせのない白身なので煮付けが美味しいです。

季節のうつわは「色絵椿絵向付」です。椿は、お茶花として初冬が18種、早春が29種あり趣があります。

染付波斯模様高台皿

<大根おろしと山葵・地元醸造醤油で>

二十四節気の「雨水」に入ると、雪から植物の芽吹きを助ける雨に変わるのですが、時たま冬型の気圧配置に逆戻りすることがあります。一時的に大雪をもたらすことは季節の変わり目のシグナルです。

富山湾では、大物の寒鰤が定置網に入ってきます。地元では寒鰤の造りは厚めに引きますが、脂が乘っている部位は少し薄めに引いて大根おろしを添えると、格別の味わいとなります。合わせる地酒は、千代鶴酒造の「恵田」がおお勧めです。

季節の器は「染付波斯模様高台皿」です。波斯はペルシアのことで、染付で波斯模様の器は、和食の器の取り合わせに緊張感を与えてくれます。高台の皿は、寒鰤の中でも一番おいしい部位を盛るのに相応しい器です。

仁清色絵桃花絵六寸皿

<上巳の節句が近づく>

雪が雨に変わる頃、二十四節気は「雨水」に入ります。宇奈月温泉は夜半の雪でまだ寒さが残りますが、富山湾の魚たちは春の便りを届けてくれます。延楽・雅膳、早春のお造りは、 赤烏賊、細魚、真鯛、鮪です。

季節のうつわは「仁清色絵桃花絵六寸皿」です。もうすぐ上巳の節句です。

志野隅入角皿

<氷見牛と若竹・石焼き>

氷見牛は、さしの入り具合と脂の質が良いので好まれます。高温に熱した石で焼きます。取り合わせは、筍が合います。

季節のうつわは「志野隅入角皿」です。志野焼は志野釉(長石釉)と呼ばれる長石を砕いて精製した白釉を厚めにかけ焼かれます。通常、釉肌には肌理(きめ)の細かい貫入や柚肌、また小さな孔が多くあり、釉のかかりの少ない釉際や口縁には、緋色の火色と呼ばれる赤みのある景色が生まれます。