9月17日から七十二候は「玄鳥去(つばめさる)」で、二十四節気の「白露」の末候になります。春に日本にやってきた燕が、暖かい南へ帰る頃という意味です。20日は秋彼岸の入りで暑さ寒さは彼岸までの言葉通り、ようやく残暑が終わります。
燕が日本に渡ってくるのは、七十二侯の「玄鳥至(つばめきたる)」で今年は4月4日でした。宇奈月温泉で飛び交う燕は、尾羽が短い小型の岩燕です。つい最近まで黒部川の河原を飛び交っていました。黒部川の面した部屋から幾筋もの黒い線が観察でき、躍動感あふれるその姿は夏の象徴でした。その岩燕が去ると秋の気配が深まります。
陽が落ちて、草叢に集く虫の音を聞きながら部屋の露天風呂に体を沈めると、頬にあたる川風に冷たさを感じます。山間の出湯は、月影さやかな時を迎えます。延楽で至福のひとときをお過ごしください。
2024年9月
黄瀬戸五寸皿
秋の味覚きのこが美味しい季節となりました。雅膳の一皿は、きのこ霙(みぞれ)和えです。えのき、ぶなしめじ、なめこ、黒トリュフです。
季節のうつわは「黄瀬戸五寸皿」です。 山の味覚は土物が合います。黄瀬戸は文字通り光沢の強い灰釉である古瀬戸系黄瀬戸と、しっとりと潤いのある油揚げ肌を呈する釉中に、黄土を混ぜた黄瀬戸に大別されます。
巴塩竃(トモエシオガマ) ゴマノハグサ科
巴塩竃(トモエシオガマ)は、宇奈月の亜高山帯の沢沿いや草地に生える、ゴマノハグサ科の多年草です。塩竃菊の変種となります。
茎は30~50cmで、茎先にスクリュー型の花を咲かせます。花は紅紫色で、横に巴型に咲きます。葉は長く縁に鋸歯があります。
原種の塩竃菊は茎の途中から花が出ますが、巴塩竃は茎頂にしか花が出ません。高山に見られる四つ葉塩竃も同じ種類です。
大文字草(ダイモンジソウ) ユキノシタ科
大文字草(ダイモンジソウ)は、宇奈月の山地の湿った所に生息するユキノシタ科の多年草です。
葉は根生して、葉柄を持ち掌状の葉身が付きます。 20cm以上に伸びる花径を出し、先に集散花序を付けます。萼は小さく5個の白い花弁の内、上部の3枚は短く下部の2枚が長くなっています。
和名は、花弁が漢字の「大」の字に似ていることに由来しています。 早咲きのものは、7月頃から見ることができます。
織部十文字形小鉢
富山湾の定置網にフクラギが入るようになりました。福来魚(フクラギ)は、鰤の幼魚で体長は30~40cm、体重は500~1,000グラム位のものを指します。漢字表記でもわかるように、かつては大漁で港がにぎわったことから福が来る魚として地元民がこよなく愛してきた魚です。漁期が比較的長く、寒鰤のシーズンより一足早い9~11月に盛漁期を迎えます。脂が少なく癖がないので、お造り、揚げ物、焼き物、味噌漬等、様々な料理の仕方で美味しく味わえます。雅膳の一皿は、福来魚(フクラギ)の南蛮漬けです。
季節のうつわは、「織部十文字形小鉢」です。珍味を入れるのに猪口や小鉢を使います。山海の珍味によってお酒が進みます。
麝香草(ジャコウソウ) シソ科
麝香草(ジャコウソウ)は、宇奈月の山の谷間の木陰に生えるシソ科の多年草です。
茎は、シソ科特有の方形で高さ60~100cmぐらいになり、ほとんど分岐することなく、多くは斜めに生えます。葉は対生し、短い葉柄があり、葉身は長楕円形で先が長く鋭く尖っています。縁は上部の部分で鋸歯があり、基部はやや細くなって鋸歯がなく耳状心形になっています。
花は、上部の葉腋にでる短い柄の先に3、4個ずつ付け一方向に向いて開きます。花冠は淡紅色で、筒部は長い唇形で上唇は短く、下唇が3裂し中央部の裂片は長くなっています。全草に芳香があることが和名の由来となっています。 伊吹麝香草も同じ仲間です。
吐切豆(トキリマメ) マメ科
吐切豆(トキリマメ)は、宇奈月の山野に生える蔓草で、他の植物の枝や茎に絡みつくマメ科の多年草です。
茎は細い針金状で、長く伸びます。葉は互生し、長い葉柄の先に3出複葉をつけ、小葉は長卵形で短い柄があります。花は、黄色で葉腋から短い総状花序を出して、花冠は蝶の形をした数個の蝶形花をつけます。
萼は、筒状で5裂し、旗弁は幅広く、龍骨弁は細長くなっています。龍骨弁とはマメ科の植物特有の蝶形花の下方の二花弁のことで、左右から接して雄蕊と雌蕊を包みます。
赤七宝切込皿
秋の気配が感じられるようになると、のど黒は旨味のある脂がのって美味しくなります。地元の生地漁港や魚津漁港には形のいい大物が並びます。のど黒のしゃぶしゃぶも絶品ですが、塩焼きは外せません。角のないまろやかな塩味で、料理に深みが増す岩塩を添えて味わってください。
季節のうつわは、「赤七宝切込皿」です。朱一色で七宝を図案化しています。縁起のいい吉相文で、朱の濃淡が存在感を与える皿です。
唐糸草(カライトソウ) バラ科
唐糸草(カライトクサ)は、宇奈月の高山帯に生える、バラ科の多年草です。茎の高さは、40~80cmで直立して、上部で分岐し、葉はまばらに付きます。
根出葉の小葉は9~13個で、下面は少し白色を帯び鋸歯があります。茎葉は小形で毛があります。枝先に大形の紅紫色の穂状花序をつけて垂れ下がる。花弁がなく長い糸状の花糸は紅紫色で美しい。
唐糸は絹糸のことで、長く伸びた花糸が絹糸のように美しいので、名前の由来となりました。
鶺鴒鳴(せきれいなく)
9月12日から七十二侯は「鶺鴒鳴(せきれいなく)」で、二十四節気の「白露」の次侯となります。季節は中秋で、鶺鴒が鳴き始める頃という意味です。ちなみに、秋を三つに分けると初秋は、二十四節気の立秋と処暑の期間、仲秋は白露と秋分の期間、晩秋は寒露と霜降の期間となります。
鶺鴒(せきれい)は、温泉街周辺で春から秋にかけて観察することができます。川沿いの小径や山道でチチッチチッと高い鳴き声を発して、長い尾をしきりに上下に振りながらまるで道案内をしてくれるかのように小走りに動きます。黒部の渓流沿いや宇奈月谷などの水辺に棲んでいます。
鶺鴒は、古くは日本神話の国産みの神聖な鳥として日本書紀に登場します。白い鶺鴒の季語は秋で、我が国では白というと雪を連想しますが、中国では五行思想により、白は秋の色とされています。
五行思想では四季の変化は、五行の推移によって起こると考えられ、方角や色などあらゆるものに五行が割り当てられます。春は青、夏は赤(朱)、秋は白、冬は黒(玄)。四季に対応する色と時を合わせてできた言葉が、青春、朱夏、白秋、玄冬などがあります。
北原白秋の雅号はこれにちなんでいます。