草露白(くさのつゆしろし)

<朝夕の川風が冷を含むようになる>

9月7日から二十四節気は「白露」となります。白は日本人にとって雪を連想させますが、日本文化に深くかかわっている中国伝来の五行説では、白は秋の色とされています。「白露」は、秋が本格的に到来し、草花に露がつくようになるという意味です。朝晩の気温差が大きくなると露が降り、ようやく残暑も終わりとなります。江戸時代の暦の解説書である暦便覧には「陰気ようやく重なり露凝って白し」とあります。

七十二侯は「草露白(くさのつゆしろし)」で、「白露」の初侯となります。夜間に空気中の水蒸気が冷却され、草に降りた露が白く光って見える頃という意味です。早朝、山道を行くと草露に足下が濡れます。行き会いの空は鰯雲に覆われ、冷たさを含む黒部の川風に一段と秋の訪れを感じます。黒部川扇状地では実りの季節を迎えます。夏の陽ざしを受けて大きく成長し色づいた稲が、収穫の時を待っています。

黄交趾菊花高台皿

<菊葉の刻印>

重陽の節句が近づくと、菊の器が必要となります。菊花の色も多くありますが中でも黄色が一番趣があります。花の中心に見たてて海老の揚げ物を。雅膳の滞在料理です。

季節のうつわは、「黄交趾菊花高台皿」です。交趾焼のうち黄釉が基調になっているのが黄交趾です。

秋桐(アキギリ) シソ科

<深山の林内にひっそりと咲いています>

秋桐(アキギリ)は、宇奈月の山林内に自生するシソ科の多年草です。

茎は基部が少し張って立ち上がり、高さが30~50cm前後になります。葉は対生して葉柄があり、葉身は三角状の鉾型で先が尖り、基部は少し左右に張り出しています。

花は青紫色で、茎の先に短い総状花序をだし、数個ずつ輪状に咲きます。額は1cmぐらいの筒状唇形です。花冠は基部が筒状で先は大きく2唇に開き、下唇は広くて3裂する。

和名の由来は、春に咲く桐花に似て、秋に咲くので秋桐と名付けられました。

山鳥兜(ヤマトリカブト) キンポウゲ科

<雅楽の鳥兜に似ている>

山鳥兜(ヤマトリカブト)は、宇奈月の深山に生えるキンポウゲ科の代表的な多年草です。

地下に猛毒(アコニチン)を持った紡錘形の塊茎がある毒草で、茎の長さが1m以上になり、立ちあがって湾曲します。毒の強さは植物成分では最強で、天然の物ではフグに次ぐといわれています。全体に無毛で、葉は長い柄があり互生で切れ込みが深く、キンポウゲ科の特徴がでています。

茎の上方に円錐花序をつけ、鮮やかな青紫色は遠くからでも目立ちます。青紫の5個の萼のうち兜状の萼は肉質で、真ん中の2個は円形で内側に毛があり、下部の2個は小さくなります。和名は、花の形が舞楽で頭にかぶる鳥兜に似ている事に由来します。

花が終わると果実が、鳥の足のような形になります。鳥兜から取った毒薬をブス、ブシ、ウズとよび、河内地方に生える鳥兜をカワチブシ、京都北山に生える鳥兜を、キタヤマブシと呼んでいます。この毒を服用すると苦しみのあまり顔が歪むところから、ブスという言葉が使われたようです。

現の証拠(ゲンノショウコ) フウロウ科

<路傍に、ひっそりと咲く花>

現の証拠(ゲンノショウコ)は、宇奈月の山道の縁に自生するフウロソウ科の多年草です。

茎は地面を這うように伸び、葉柄をもった葉が対生につきます。夏から秋にかけて葉腋から花柄が伸び、茎頂は2裂し白色の可憐な花をつけます。宇奈月では白色が多く見られます。西日本では赤花、東日本、北日本では白花が多いようです。岡山県あたりが分岐になっているようです。

夏に陰干しにした茎葉を煎じて飲むと、薬効がすぐ現れることが和名の由来となっています。医薬品として認定されています。別名「医者いらず」ともよばれ、ています。下痢止めや健胃整腸薬となります。

焼締・急須形土瓶蒸

<鱧の出汁が美味しい>

秋の気配が感じると、土瓶蒸しが欲しくなります。松茸と鱧の土瓶蒸しで、秋を味わってください。

土瓶に松茸、鱧、海老、鶏肉、三つ葉、銀杏などの具と、だし汁を入れて蒸します。猪口に酢橘を絞りお召し上がりください。

季節の器は、「焼締・急須形土瓶蒸」です。

仁清色絵秋草絵向付

<風にそよぐ宇奈月の山の秋草>

おわら風の盆が終わると、宇奈月温泉の周辺の山は秋草がそよぐようになります。今年のおわらは、コロナ禍で中止となり寂しい限りです。宇奈月平和観音像が建立されている、大原台公園の直下は、すすきの海原です。登山道には山萩の花が一面にこぼれ甘い香りが漂ってきます。

雅膳の一皿は、「仁清色絵秋草絵向付」です。秋の彩が楽しめる器です。何が盛り付けられるかは当日のお楽しみです。

盗人萩(ヌスビトハギ) マメ科

<小さな淡紅色の花を、多くつける>

盗人萩(ヌスビトハギ)は、宇奈月温泉の山の道端や藪陰に多く見られるマメ科の多年草で、萩の仲間です。

萩の花が咲くころ長い総状花序をつけ、まばらに淡紅色から白の小型蝶形花をつけます。豆果の形をしび歩く盗人の足跡に見立て、花が萩のような花なのでこの名前を付けられた様です。

盗人萩の花が咲くと、宇奈月温泉には秋風が吹きます

草牡丹(クサボタン) キンポウゲ科

<独特な淡紫色の鐘状の花>

草牡丹(クサボタン)は、宇奈月の山地に自生するキンポウゲ科の多年草で、基部が木質化し茎の高さは1mにもなります。

茎頂及び上部葉腋に集散花序がつき、全体が円錐状になります。花は淡紫色で開くと鐘状で先は丸まります。雌雄異株で雌花は雄花より小さく、花が終わり種子をつけるようになると、花全体が白髪のようになります。

 和名は、牡丹とよく似た葉であることに由来します。

高麗青磁菊形向付

<紅津和井蟹と水菜のおひたし>

富山湾に秋の訪れを告げる紅津和井蟹漁が9月1日に解禁となりました。地元ではアカガニと呼ばれ翌年6月30日まで漁が続きます。生息地は、ズワイガニより深い水深500mから2400mまでの領域です。富山湾では水深1000mの海底が魚場となり、円錐台形の蟹籠を沈めて漁をします。

雅膳の一皿は、紅津和井蟹と菊菜、水菜のおひたしです。紅津合蟹の他に富山湾で獲れる毛蟹等も使う場合があります。地元の生地港、魚津港の船が漁に出るのが9月の中旬位になりそうです。

季節のうつわは「高麗青磁菊形向付」で菊形の器です。高麗青磁は、朝鮮半島の高麗時代(918年~1391年)に製作された青磁釉を施した陶磁器です。高麗独特の象嵌青磁や辰砂文様等の青磁も作られるようになりましたが、李朝時代に入ると粉青沙器が主流となります。20世紀になり、失われていた高麗時代の製法が復活し、高麗青磁が蘇ります。