3月25日から七十二侯は「桜始開(さくらはじめてひらく)」で、二十四節気「春分」の次侯になります。富山市の桜の名勝松川縁は、寒の戻りで開花が遅れています。
宇奈月温泉は、山々から吹き下ろす風はまだ肌寒く、桜の蕾はまだ堅しです。ギャラリーの日本画の展示作品の題材は桜です。
松岡映丘の「東海の図」では、彼方の海原に朝日が昇り、春霞棚引く山々と手前に松と桜の大樹を配し、波の穏やかな漁村風景を題材にした作品です。児玉希望の「芳埜」は、吉野の山々の桜を気品ある色合いで優雅に描いた大作です。同じく児玉希望の「浅春」は、岩を喰む急流と春の訪れが遅い峡谷を描いた作品で、黒部峡谷を思わせる景です。
その他、東京藝術大学で松岡映丘の指導を受けた山口蓬春の「山佐久良」は春の香りを漂わせてくれます。春霞と遠山の取り合わせが美しくなる頃となります。
2024年3月
染付桔梗千筋七寸皿
早春の割鮮は、細魚、アオリイカ、あら、鮪、甘えびと春の香りを伝えます。ホタルイカも美味しい季節です。染付の千筋の平皿に盛ると映えます。
季節の器は、「染付桔梗千筋七寸皿」です。桔梗の形を何重にも線だけで表現しています。まさに職人技です。季節は秋の花ですが、通年使いたくなる器です。
色絵綾文皿
宇奈月温泉の早春の調べは、蛍烏賊と白海老によって運ばれます。どちらも今が旬で生姜醤油でお召し上り下さい。宇奈月周辺の山々では山菜の芽吹きが始まります。
合わせる地酒は、柔らかな口当たりの「満寿泉大吟醸」です。北前船の文化が残っている富山市岩瀬のお酒です。
季節のうつわは「色絵綾文皿」です。春は爽やかな萌黄色で、須田菁華の作品です。現在は四代目です。
織部十字形小鉢
粋な小鉢に旬の魚を入れて楽しみます。小鉢には染付、黄瀬戸、赤絵、金彩、志野、備前などいろいろとありますが、今回は織部を使いました。富山湾の細魚が美味しい時期となりました。延楽特製の煎り酒で食します。合わせる酒は、林酒造の大吟醸「黒部峡」です。
季節のうつわは「織部十字形小鉢」です。織部の小鉢も様々な形があります。
ホタルイカ釜揚げ
富山湾の春の風物詩であるホタルイカは、優美な流線型で透き通った薄茶色の可憐な姿をしています。漁は、底引網漁と違って資源に優しい定置網漁業で水揚げされます。網を上げるときに一斉に青白く光るところが名前の所以です。
お造り、酢味噌和え、天婦羅、多彩な料理法がありますが、特にお薦めなのが釜揚げす。アツアツの脂ののったオレンジ色の内臓が格別です。富山の地酒が一段と味を引き立ててくれます。
小蓋物染付唐草
お凌ぎは、空腹をしのぐため出される一品です。もち米を使った飯蒸しをよく使います。もち米と甘鯛にゆず餡を掛けたりします。この時期は、雲丹を使った飯蒸しです。
季節のうつわは「小蓋物染付唐草」です。小さな蓋物ながら、宝相華唐草文が染付でしっかりと描かれています。唐草文とは、花と葉のついた蔦が律動感のある曲線を描く文様で、中国から伝わったので「唐」を使います。唐草文には法相唐草の他に忍冬唐草、葡萄唐草、蓮華唐草、牡丹唐草などがあります。
雀始巣(すずめはじめてすくう)
3月20日から二十四節気は「春分」となります。太陽が真東から昇り真西に沈み、太陽が春分点を通る日で、昼と夜の長さが同じになることから二十四節気では大きな節目の日とされています。寒さが薄らぎ、春の訪れが実感できるようになります。
七十二侯は「雀始巣(すずめはじめてすくう)」で、二十四節気「春分」の初侯となります。雀が巣作りを始める頃という意味で、この日を境に、北半球では日脚が少しずつ長くなります。旅館の庭の枝垂れ梅が開花し始めました。これからは春の光によって自然の表情が豊かさを増してきます。
春分の日には皇室では春季皇霊祭が行われます。天皇・皇后が出席して皇霊殿で行われる先祖祭です。旧憲法下では国の祭日でしたが、1947年に春分の日として国民の祝日となりました。春分を中日とする前後3日ずつ7日間が春のお彼岸で、先祖供養や農事始めをする節目の時期となります。
鼠志野麦藁四方隅入向付
真蛸の美味しい時期になりました。春の野菜との焚合です。木の芽が春の香りを引き立ててくれます。
季節のうつわは「鼠志野麦藁四方隅入向付」です。鼠志野は、全面に鉄化粧を施し、麦藁の部分の鉄を掻き落として志野釉(長石釉)をかけます。黒っぽい鉄の上に白濁する釉薬をかけるので、全体に鼠色になります。鉄を掻き落とした部分は、長石釉の白色になります。土の柔らかさが伝わる器です。
仁清色絵遠山向付
車海老の中で20g以下のものを才巻と呼んでいます。旨味を閉じこめる天婦羅がお勧めです。黒部の山菜も天婦羅で苦みを含ませながら美味しくいただけます。山の端が霧や靄に包まれる美しい頃となりました。黒部ならではの豊かな表情を見せてくれます。
季節のうつわは「仁清色絵遠山向付」です。宇奈月の春が味わえます。
祥瑞写兎文六寸皿
雅膳の強肴は山海の珍味で、地酒を楽しむアテとなります。ナマコの卵巣を干した干口子と鮑の旨煮はお酒が進みます。
季節のうつわは「祥瑞写兎文六寸皿」で、昭和初期に有田で作られたものです。兎は神聖な動物で瑞祥な動物とされてきました。従って兎文は吉祥文とされてきました。この器の本歌は「祥瑞兎文輪花皿」です。