温風至(あつかぜいたる)

<延楽の松の剪定>

7月6日から二十四節気は「小暑」となり七夕の日でもあります。小暑は、本格的な暑さの前段階で、徐々に夏を肌で感じるようになります。例年この時期は、長く続いた梅雨が終わりを告げ夏本番となる頃です。小暑から立秋の前日までが「暑中」となります。暑中見舞いはこの間に出し、立秋に入ると残暑見舞いとなります。

七十二侯は「温風至(あつかぜいたる)」で、二十四節気「小暑」の初侯となります。温風とは南風のことで、温風が吹いて蒸し暑い日が増えてくる頃という意味です。沖縄から順に梅雨明けが始まるのもこの時期です。 今年は、日本列島に梅雨前線の停滞が続き、線状降水帯が発生するところでは、大水害をもたらしています。加えて日照時間が短い日が連日続きます。

この頃は、庭木の剪定の時期でもあります。雨の中、植木職人たちが松の新芽を指で摘んで取り除きます。葉が茂りすぎると樹形が見苦しくなります。常緑広葉樹は新しい枝が伸びてくるので剪定をして風通しをよくします。雨に濡れて松の緑が一段と美しく映えます。

靭草(ウツボグサ) シソ科

<直立した茎の先に紫色の肉穂花序をつける>

靭草(ウツボグサ)は、宇奈月の日当たりのよい山野の草地に生えるシソ科の多年草です。

茎は、20cmから30cmで基部から葉を付けた短い匍匐茎を地表に伸ばします。匍匐茎とは地上に伏して細長く伸び、その先に芽を付ける茎のことで節から根や芽を出して繁殖します。

葉は、長楕円状披針形で対生し小さな柄があり、茎はシソ科特有の四角形です。花は、直立した茎の先に肉穂花序を出し円柱状の花穂につきます。花穂は、扁心形の苞に包まれ萼は、二唇形で上唇は一部切り取られたような切形で短い3歯があり、下唇は鋭く2裂しています。花冠は紫色で筒状二唇形で、上唇は兜状、下唇が3裂して開出しています。

和名は、花序の形を矢を入れる靫(ウツボ)に見立てたこに由来します。 夏に枯れても残るので夏枯草(カコウソウ)とも呼ばれ、生薬となります。宇奈月の高山帯では、小型の立山靫草が見られます。

着彩丸紋繋山水向付

<丸紋繋ぎの図案>

7月1日から始まる祇園祭の頃に鱧は旬を迎え、脂が乗って美味しくなります。鱧は梅雨の水を飲んで育つと言われていますが、今年はすでに梅雨が明けました。雅膳の焜炉は、鱧鍋です。

季節のうつわは「着彩丸紋繋山水向付」です。呉須と赤絵の山水丸紋繋ぎです。

燕万年青(ツバメオモト) ユリ科

<純白で清楚な花>

燕万年青(ツバメオモト)は、宇奈月の亜高山帯の落葉樹林内に生えるユリ科の多年草です。

葉は、倒卵状長楕円形で厚みがあり根生し、万年青によく似ているので和名の由来となっています。花茎は1本立ち上がって総状に白い花をつけます。花被片は6個で夏の終わりに濃紺の実になります。

純白で清楚な容姿は、山野草の中では最も貴賓があります。

山吹升麻(ヤマブキショウマ) バラ科

<雨上がりの白い清楚な花は、山吹升麻>

山吹升麻(ヤマブキショウマ)は宇奈月の山地林縁に生えるバラ科の多年草です。

雌雄異株で根茎は木質化し、葉は大きく2回3出状複葉に分かれ、卵型の小葉はさらに羽状に分かれています。和名は、 山吹の葉とよく似ているところに由来します。

花は、大きい円錐状総花序を作って開き、5個の花弁を付けます。 宇奈月では赤升麻、山吹升麻、鳥足升麻、更科升麻の順に開花します。 

山荷葉(サンカヨウ) メギ科

<爽やかな香りがする山荷葉>

山荷葉(サンカヨウ)は、宇奈月の深山の雪解けの沢の斜面に白根葵(シラネアオイ)などと一緒に自生するメギ科の多年草です。

2枚の大きな葉が特徴で、茎の中ほどにから上につき、広腎臓形で2深裂し下面に毛があります。花は散房花序に6弁の白い花を数個つけ、水に濡れると半透明になります。開花するとすがすがしい香りがして、秋には濃い青紫色の実をつけます。

青瓷花刻小鉢

<焼鮎の煮凍り>

黒部川では鮎釣のシーズンを迎えました。雅膳の滞在料理の小附は、焼鮎の煮凍りです。焼鮎の香ばしい身を、鮎の出汁を固める涼やかな一品です。

季節の器は、「青瓷花刻小鉢」です。高麗青磁の特徴である花の象嵌が施してあります。

赤目柏(アカメガシワ) トウダイグサ科

<アカメガシワは、柏の種類ではない>

赤目柏(アカメガシワ)は、宇奈月の山野に普通にあるトウダイグサ科の落葉高木です。

春先の新芽と幼葉は、紅赤色の毛に覆われて周り新緑のなかで一際美しく映えます。成葉は紅褐色の長柄が特徴で、大きな卵円形で浅く3裂することがあり、表面は深緑色、裏面は淡緑色でよく光合成が行われています。

雌雄異株で梅雨時期に枝先に円錐花序を出して、花弁のない淡黄色の小花を穂状にたくさんつけます。果実は秋に熟し、朔果で紫黒色の種子があります。種子は高温にさらされると発芽しやすくなる特徴があるので、樹林の伐採した後や森林火災の後に一気に繁殖する先駆植物です。

名前に柏がついていますが、柏ではありません。和名は、芽が赤くカシワのように食べ物を葉に包んだり、盛り付けたことに由来します。

赤地金襴手宝相華唐草文

<宝相華唐草文が焼き付けられている>

雅膳の千代口は、蓴菜(じゅんさい)の酢の物です。ぬめりのある食感は、初夏を感じる爽やかな一品です。蓴菜は、水のきれいな沼の底に根を張り、水面に葉を浮かべるスイレン科の浮葉植物です。若い茎や葉は粘液質を分泌し、これで覆われた若芽を食材とします。

季節のうつわは「赤地金襴手宝相華唐草文」で、永楽妙全の作です。赤地金襴手とは、金彩色絵磁器のことです。赤の地釉を使い、金泥や金箔を宝相華や唐草文などに切り貼り、それを焼き付けた器です。着物の金襴に似ているところから金襴手と呼ばれるようになりました。

地釉の別によって、五彩(赤絵)に金彩を加えた、赤絵金襴手、赤を地釉に用いた赤地金襴手、瑠璃釉上に金彩を加えた瑠璃地金襴手、その他萌黄地金襴手、黄地金襴手、白地金襴手などがあります。

色絵波絵向付

<鱧の湯引き>

一年で一番日が長い夏至を過ぎると、夏に向かって暑さが増していきます。7月1日から始まる祇園祭のころに鱧は旬を迎えます。梅肉を添えて牡丹鱧でお召し上がりください。

季節の器は、「色絵波絵向付」です。夏に向かっての器です。